地元防衛軍、海へ

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 その数時間後、福島第一原発の南側の陸地に近い海域で、1隻の沿岸漁船の乗組員が船長に網の不調を訴えていた。 「おおい、船長。網が何かに引っかかったんじゃねえかな。やたら重いんだけんど」  エンジンを止めて操縦室から甲板に出て来た船長は、海の中に視線をやって首を傾げた。 「おかしいな。この辺には網が引っかかるような物はないはずだが」  乗組員も海面を見つめて、目を凝らした。そして大声で船長に言う。 「なんかでかい物が浮いて来る。サメか?」  次の瞬間、船からわずか数メートルの海面から細長い巨大な首が水しぶきを上げて現れた。  それは長さ10メートルはあろうかという首だった。ぎょろりとした目玉が船長と乗組員をにらみ、二人は甲板に奥に座り込んで恐怖に震えた。  その巨大な首の口には鋭い牙がずらりと並び、後頭部から白い水蒸気のような物が勢いよく噴出した。  首が再び海面下に潜ると、漁船の船体が激しく揺さぶられ、網を巻き取るウインチがまた勢いよく回った。引き上げられた網の先端部はずたずたにちぎれていた。  その知らせはいわき市のホテルに待機していた渡研のメンバーにも届いた。渡の部屋に集まった5人はすぐに巨大生物の正体を察した。遠山が言った。 「あの、死の天使を名乗る女たちが言っていた、裸の特異点から飛び出して行った物体はこれですね」  宮下が首を傾げながら言った。 「だとしても何故こんな地方に?」  筒井がスマホの画面を見せながら叫んだ。 「大変です。あちこちのSNSが大騒ぎに」  皆がその画面を見ると様々な書き込みがあふれていた。 >ついに来たーーーー放射能怪獣出現だってよ >やっぱ原発からの処理水放出ってやばかったんじゃねえか >トリチウムとかで汚染されたのが原因か? >そうに決まってんじゃん。放射能で突然変異した怪獣だよ >原発反対、汚染水放出今すぐやめさせろ  渡が苦々し気につぶやいた。 「彼女たちがこの場所を選んだのは、これを狙っていたのか」
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