地元防衛軍、海へ

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 その巨大生物は河口近くにある富岡漁港の沖合で、その長い首を海面上に現した。漁港にいた漁師たちは遠目にその姿を見て悲鳴を上げた。 「おい、何だ、ありゃ? 海蛇か?」 「馬鹿言え、こんな北の海に海蛇なんかいるわけねえ。そうだとしてもあんなでかい海蛇がいるもんか」  その頭部はトカゲのようであり、口には鋭い牙がびっしりと並んでいた。後頭部からブシューという音とともに水蒸気が噴き出た。  その長い首は縦にクネクネとうねって海面近くの水中に何度も突っ込み、魚を食い漁った。辺りの海面が食いちぎられた魚の血で赤く染まった。  漁港の周りに集まって来た漁業関係者が表情を凍らせて見守る中、その巨大生物は沖に向かって泳ぎ去り、水中に没した。  30分ほどの間の出来事だった。その様子は漁港の建物の屋上に設置されていた監視カメラに記録されており、その動画データはオンラインで自衛隊の対策本部にただちに転送された。  対策本部のテントの中で再生動画を見た遠山が、ポンと膝を叩いて言葉を発した。 「分かったぞ。これはクジラだ」  渡研の他のメンバーたちも居合わせた自衛官たちも一様に「えっ?」という声を上げた。  松田がパソコン画面上の動画を見ながら言った。 「こんな形のクジラがいるんですか?」  遠山が少し笑った表情で答えた。 「もちろん現生種じゃない。これを見てくれ」  遠山が自分のノートパソコンをたぐり寄せて1枚の画像をそこに映し出した。画面に出て来たのはウナギか蛇のように体全体が細長い生き物だった。遠山がそれを指差しながら言う。 「バシロサウルス、あるいはゼウグロドンとも言う、四千年前から三千四百万年前にかけて生息していた原始的なクジラの祖先だ。今のクジラと違ってやけに細長いだろ? 浅い海にだけ生息していて、小型の魚類や頭足類などを捕食していたと考えられている」
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