地元防衛軍、海へ

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 2月末の、まだ肌を切り裂く様な冷たい風が吹きすさぶ中、渡研の5人は砂浜で4人の超能力者と対峙していた。  福島第一原子力発電所にほど近い閉鎖中の海水浴場のビーチには、色違いの防寒ジャンパーを上半身に着込んだ車椅子の華、両手で松葉杖を突いた義足の雪、白い杖を持つ月、そして車椅子の後ろに立っている星が、10メートルほどの距離を置いて渡たちと向き合っていた。  渡が横に並んで立っている列から一歩踏み出して、華に呼び掛けた。 「ここで何をするつもりかは知らんが、当局に投降したまえ。永遠に逃げ回れるとでも思っているのか?」  華は車椅子の上でかすかに不敵な微笑みを浮かべながら応えた。 「私たちは逃げ回っているのではありませんよ。目的のために旅をしているのです」  渡がなおも詰め寄る。 「その目的とは人類を絶滅させる事かね?」 「ええ、その通り。まあ絶滅とまではいかなくとも、自然環境に影響を与える事が不可能になる程度に衰退してくれてもいいけど」 「君たちは何者だ? バックに大きな組織でもあるのか?」 「いいえ、私たちは独立した存在です。そうそう、名前が無いとそちらも不便でしょうからこう名乗る事にしましょう。L’Ange de la mort(ランジュ・ドゥ・ラ・モルトゥ)」  渡は少し顔をしかめて後ろにいるメンバーに尋ねた。 「何語だ?」  遠山がすかさず答えた。 「フランス語ですね。『死の天使』という意味でしょう」  遠山は挑発的な笑みを浮かべて4人の超能力者に告げた。 「だがうちの大学のフランス語の試験なら落第だな。そこはLes Anges(レサンジュ)と複数形にするべきだろう? 君たちは4人いるじゃないか」  華は声を上げて笑った。 「あはは、さすが大学の先生ですね。でも単数形でいいのですよ。私たちは見ての通り重度の障碍者ぞろい。5人そろってひとつの存在のような物ですから」
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