細かいことは気にしない

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細かいことは気にしない

「その数字を計算すると……アカコちゃんのエンジェルナンバーは」  誰にでも分かる具体的な数字を、自分の向かいの席に座る制服姿の大中(おおなか)トロミから教えてもらったはずなのに黒麻(くろま)アカコは首を傾げた。 「なんて言ったの?」 「ネイティブな発音は難しいんだよね、アカコちゃんはこの数字」  机の上に広げた雑誌の占いに関するページに書かれている数字をトロミは人差し指で示す。小学生が好きそうな形をした数字だった。 「これがわたしのラッキーナンバーということね」 「エンジェルナンバーだって」 「幸運を呼び寄せるものなんだから同じでしょう」 「違うよ。ラッキーナンバーは幸運だけど、エンジェルナンバーは天使からのプレゼントだもん」  トロミのどこか自信満々な表情を見てか……アカコが心配そうな視線を彼女に向ける。 「トロミは未だにコウノトリを信じてそうよね」 「まだ実在してなかったっけ」 「天然記念物としてならトロミも負けてないわ」 「どこかの国の偉い人に保護されて、わたしも量産されちゃうのか。ジャンケンなんか決着がつかないから大変だろうね」 「そうねー。大変ねー」  しばらく雑談をしたあとアカコとトロミは一緒に下校した。  互いの指を絡めるように手を繋いできたトロミを面倒くさそうに扱うような素振りをしながらもアカコは離れようとしなかった。 「当たらないんですけど」  数日後。朝の挨拶をする前に教室の自分の席に座っていたトロミにアカコが文句を言う。 「なにが?」 「宝くじ……エンジェルナンバーの入った数字を選んだのに全て空振り。わたしのおこづかいに白い羽根がはえちゃったわよ」 「だからラッキーナンバーじゃないんだってば」 「あー、そういえばそんなことを言っていたっけ」  机の上でスライムのような状態になっているアカコをトロミが指でつつく。粘り気のあるものが彼女の人差し指の先端にくっついてか驚いていた。 「今ならアカコちゃんのジャムが食べられそうだね」 「やめれー」 「宝くじは当てられないけどさ、メロンパンをおごってあげるから元気だしてよ」 「チョココロネが良い」 「スライム状態でも食い意地はあるようで」  よっこいしょと声を出して、なんとか元の形に戻った粘り気のあるアカコをトロミがおんぶする。  甘い匂いがするからかアカコが鼻をひくつかせた。 「クリスマスは彼氏と一緒に過ごすんじゃなかったの」 「うるさい。失恋しちゃった友達をなぐさめてあげようとか、優しいことは考えられないわけ」 「弱っているくせに憎まれ口は達者だね」  ベッドの上で後ろから抱きしめてくれているトロミに今の自分を見られたくないようで両腕で顔を隠した状態でアカコは鼻をすする。 「そっちこそ……彼氏はどうしたの?」 「ドタキャンしちゃった」 「わたしみたいに振られるわよ」 「それはどうかな。わたしは彼女役よりも彼氏役のほうがしっくりくるのかもしれないと思っているんだけど」  ぺろっと、トロミが自分の唇を舌で舐めた。 「なんの話」 「まあまあ、とりあえずなにか食べようよ。嫌なことはお腹をいっぱいにして眠ったら……全部なくなっちゃうんだからさ」  あーんと促されるままに、トロミが運んでくる料理をアカコは食べていく。その流れで小悪魔のような彼女に不意に、失恋した彼女が唇を奪われるまで時間はかからなかった。 「上手上手、良い感じ。そんな風にこっちも腰を振ってあげると男は喜ぶんだよ」  ホテルの一室のふかふかのベッドの上で顔を赤くしながらもアカコは、トロミの言う通りに行動していく。  柔らかな枕に顔をうずめて、汗ばんだ様子のアカコが窓の外のちらつく雪に気づいた。 「あの時と同じように奇麗だね」 「いつのこと」 「高校二年生ぐらいの頃かな……アーちゃんが当時お熱だった男の子に振られたとかで」 「思い出させないで」 「ごめんごめん。お詫びにもっと楽しいことしようね」 「変じゃない? 同性なのに、こんなことって」 「だから……エンジェルナンバーのおかげだよ。ホテルの部屋番号とか、病室の番号に苦労したんだよ」  と言い、ベッドの上で横になったアカコが抱えている赤ちゃんのほっぺたをトロミが人差し指でつつく。 「男の子だったら変だけどさ、わたしたちと同じ女の子なんだから普通のことだよ」 「そういうものかな」  病室の窓が開いていたようでカーテンがゆらめく。  知らない間に床の上に落ちていた白い羽根にアカコとトロミは気づくことなく……赤ちゃんの顔をじっと見つめていた。
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