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言葉の意味が汲み取れずに見つめていると、「あのね」と彼女は目をつむる。
「私のママ、金木犀が好きだったの。ドライフラワーにする方法も教えてくれた。でも死んじゃった。……私をひとりぼっちにした。ママ以外、私のこと嫌いなの。ママの愛人の子どもだから。相手の人、日本人じゃないの。私だけ、こんな見た目で」
「……なんで、今まで、だまって」
「気持ち悪がられたくなかった。真理亜ちゃんのこと、好きだったから……!」
友達だったのに。毎日一緒にいたのに。
どうして今更、そんなことを。
開け放った病室の窓から、肌寒い秋風が吹き抜ける。
「自分の体調がおかしいことにも、気づいてた。だからね、ママと一緒に死ねたらいいなって、思ったの」
そうか。だから彼女は、窓から身を投げたのか。
しっかり者の彼女が、大切なものを窓から落とすなんて、そんなドジで自らも落ちるなんて。おかしいと思っていたのだ。
「せめて綺麗に、死にたかった。私、もう」
苦しい。
彼女の口が作った言葉に、私は目を伏せる。
こんなになっても、朝水麗子は美しかった。綺麗に死にたかったと彼女は言ったけど、今だって十分に綺麗なのだ。
ずるい。やっぱり私は嫉妬する。
才能も能力も外見も、私より恵まれている貴方が眩しくてたまらない。まさに物語のような人生で、朝水麗子は主人公でしかない。
貴方が必死に集めて積み上げた金木犀。これは貴方自身でしょう。
花言葉の通りに謙虚で、気高くて、芳しくて、忘れられない。
取り繕っていたの? 寂しくて、こんな小さな花々を拠り所に生きていたの?
どうして私を拠り所にしてくれなかったの。
勝手に話しかけたくせに。散々苦しめてきたくせに。
――――貴方のことが、嫌いだ。
痩せ細った彼女の首を両手で締め付ける。
微かにうめく彼女の頬で、私の涙が落ちて弾けた。
大好き。大嫌い。大好き。
大嫌い。
ぐっと親指に力を込める。彼女は少しも抵抗せず、澄んだ瞳で私を見つめくるばかり。
どうして彼女が笑うのか、私には分からなかった。
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