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朝水麗子の考えることは、よく分からなかった。
金木犀を集める理由すら、話してくれない。彼女が母親を早くに亡くしていたという事実も、最近やっと知ったのだ。
事情を彼女の家族に話し、私は橙色の花々を手のひらに集めた。
金木犀の匂いは、麗ちゃんの匂い。
私には、その認識が刷り込まれている。
花言葉はなんだっただろうか。調べてみようか。思いながら、黙々と集めた。
その間に、彼女は私の物語を読んでくれた。高校生の終わり頃に書いて雑にネットに上げたものだが、彼女は横になりながらスマホで読み進めてくれているようだった。
彼女と会うようになってから筆を止めているので、私の最新作はそれ止まり。
書籍として売れるほどの作品を書く彼女には物足りなくて拙い内容だろうと思うと、恥ずかしくて堪らなかったが。
「面白かったわ、ありがとう」
集めた金木犀の花々を瓶に注いでいる私に、彼女は笑顔でそう言った。
どうやら物語を読んでくれたらしい。彼女は物語の色々な点を誉めてくれた。
それなのに。
「もっと……正直に、話してよ。ねぇ、どこがダメとか、ここはこうした方が、いいとか」
私から溢れた言葉は、あの頃とは違っていた。読んでくれてありがとう、嬉しい。
その言葉を、彼女に言えない。
「ねぇ、お願い、教えて。……どこがダメなの? 私の、どこが」
彼女は横になったまま沈黙し、何も答えてはくれなかった。
ただ、一言。
ぽつんと、呟く。
「……私はね。真理亜ちゃんの小説を読んで、書きたいって思ったのよ」
「……え」
「嘘じゃない。私、真理亜ちゃんの小説が、好き」
バカ言わないでよ。
言葉が出るよりも先に、彼女のか細い腕を掴んでいた。
「私は、ずっと、あんたのせいで……!」
「私、ずっと、真理亜ちゃんが羨ましかった」
私が覆いかぶさると、彼女は震える手で私の腕を掴んで微笑する。
「……私ね、ずっと誰かに愛されたかった。貴方はちゃんと愛されて育ってた。家族の話が出来ない私と違う。愛された人にしか書けない話があるの。……書いても書いても、とうとう私には書けなかった」
ぽろり、彼女の色素の薄い瞳から涙がこぼれ落ちる。
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