悠久の雑貨店

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 玄関から入ると、カランとベルの音がして、懐かしい匂いが鼻の奥をくすぐった。窓から斜めに差し込む陽の光が、薄暗い部屋の中を照らしている。目の前にはカウンターがあって、その向こう側に主のいない〝トウ〟の椅子の背が見える。長い間おじいちゃんが使っていた愛用品だ。トウとは、外国に生息する植物で、そのツルを使うと、軽くて丈夫な椅子になるらしい。  左手の商品棚はほとんど空だが、一番下の段に籠や置物が残っていて、ホコリを被っている。売れ残った商品だろう。  右手の棚には何かの種が転がっている。ここにはかつて、たくさんの野菜や果物が並んでいた。わたしがこの店を訪れると、黄色い粒がぎっしり詰まった〝モロコシ〟をここから取り出して、おじいちゃんが塩ゆでにしてくれるのだ。アツアツのモロコシにかぶりつくと、ジューシーな甘さが口いっぱいに広がる。おじいちゃんが亡くなって以来口にしていないが、あの味を想像するだけでよだれが出てきそうになる。
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