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04.
それでも簡単に諦めるわけにはいかない。
「下條くん。それにみんなも話しているところに悪いんだけど、ちょっといいかな?」
自分の席で他の友達と話をしていた慶太に声をかける倫太郎。
「どうした? 夏田くん」
真夏の太陽をいっぱいに受けた青い海で優雅に揺れるヨットのようなさわやかな表情の慶太が倫太郎に顔を向ける。慶太は成績も良いし、親切だ。だから友達も多いし、女子生徒からも人気がある。
「あのさ、演劇に興味はない?」
倫太郎は慶太だけじゃなくその場にいたクラスメイトを見まわす。けど、唐突な話にみんなきょとんとしているだけだった。
「演劇部に入ってくれる人を探してるんだよ」
慶太や彼を取り囲む同級生たちも互いに顔を見合わせて困惑気味。
「悪いけど、サッカー部が忙しいんだよね」
「ごめん、塾があるから」
申し訳なさそうにそう告げるばかり。最後に慶太が口を開いた。
「せっかくの誘いだけど、僕もテニス部もあるし、塾もある。夏田くんの助けはできそうもない。本当に悪いけど」
倫太郎は首を振る。
「ううん、こっちも急な話で悪かったよ」
倫太郎はできる限りクラスのみんなに声をかけた。けど、男子生徒も女子生徒も、申し訳なさそうに頼みを断り続けた。部活がある、塾に行かなきゃいけない、演技なんてできない。そういった理由で。
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