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05.
倫太郎は玄関のチャイムを鳴らす。「北小路」という表札の横。しばらくすると玄関の鍵を開ける金属的な音が小さく響き、ドアが開いた。中から出てきたのは北小路翼。
「こんにちは。あの、北小路くんのプリントとか課題持ってきた」
倫太郎は通学用バッグを開き、担任から預かってきた北小路の分のプリントや課題を手渡す。北小路は玄関の中から腕を伸ばす。
「わざわざありがとう」
いつもなら、それだけの短い会話を交わして終わりだった。
「ねえ、北小路くん。ちょっと君に頼みがあるんだよ」
玄関のドアを閉めようとしていた北小路の手が止まる。
「頼み?」
北小路の警戒するような視線を浴びながら倫太郎はうなずく。
「あのさ、演劇部に入ってくれないかなって思って。僕、演劇部に入ってるんだけどさ、いま部員が三人だからさ、人手が足りないんだよ。だから、もし北小路くんが演劇に興味があるなら……」
「演劇部に入れって? それはないね」
北小路はそれだけを告げると、玄関のドアを締めた。鍵をかけるときの金属的な響きが、やけに倫太郎の耳に冷たく響いた。
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