06.

1/1
前へ
/14ページ
次へ

06.

 北小路翼は不登校気味の生徒。この高校に入学したあと、同じ教室にいる彼の姿を倫太郎が見たことはあまりない。週に一、二度は登校してきて授業を受けているけれど、休み時間はたいてい一人で本を読んでいる。親しい友達はいなさそうだ。  倫太郎が北小路との連絡係になったのは、単に登下校のルート上に彼の家があるというだけの話。  今どき、授業で出る課題や学校からの連絡は、生徒一人ひとりが入学時に購入したタブレット端末に送られる。けど、倫太郎がわざわざ連絡係となったのも、同級生が顔を合わせて彼と言葉を交わし、元気かどうかをたしかめてほしいとの担任からの頼みだったから。 「それでその不登校の生徒が演劇部に入れば、もっと学校に来るんじゃないかと思ったのか。悪くない思いつきだとは思うけど、そんなふうに冷たい態度を取られたらね」  暗い顔をした安井先輩の言葉に倫太郎がうなずく。  翌日の放課後。演劇部の部室で倫太郎は昨日のいきさつを二人の先輩に語ったところだった。 「しょうがないよ。たった一日で部員が増えるなら、そもそも最初から演劇部にもっと部員がいるよ。夏田くんのせいじゃないから。オレだって片っ端から演劇部に入らないかって声をかけまくったんだけどさ、ぜんぜんダメだった。簡単にはいかないさ」  小野先輩が明るく笑った。首まわりや頬にたっぷりと脂肪のついた顔に笑顔が浮かぶと、倫太郎としても気分が軽くなるのが救い。  演劇部の外からは野球部の掛け声や、合唱部が声出しの練習をしている声が聞こえてくる。 「とにかく、私は秋の文化祭に向けて台本のアイデアを考えるから。そろそろ準備しておかないとね。稽古の時間を考えたら」  安井先輩が言った。銀縁メガネの奥の目で遠くを見つめるような目つきで。それは意欲的だけど、どこか諦めも混じるような目。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加