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「ちょっと待ってよ、今度の文化祭までにメンバーを増やさないと来年度は廃部になるって急に言われても」  二年生の小野先輩は戸惑った顔。ラグビーや相撲をやっているかのような大きな体を揺らして。 「演劇部って言っても三人しかいないから。いつかこんな日が来るんじゃないかなとは思っていたけど」  演劇部の部長で三年生の安井麻里亜がため息混じりにつぶやく。銀縁のメガネでいつもクールな表情がめずらしく戸惑っている。  この春に演劇部に入ったばかりの一年生・倫太郎は無言のまま、二人がさらにどんな話をするのか待つばかり。 「ま、今年の新入生が一人だったし、オレと一緒に入ったもう一人もすぐに辞めたから、しょうがないよ」  小野先輩がその巨大な体が揺れるような感じで自虐的に笑った。けど、すぐにその笑い声を抑え込む。安井先輩が苦虫を噛み潰したような顔だから。小野先輩が安井先輩にたずねる。 「先輩、どうします? 文化祭も三人でやろうって言ってたけど」  安井先輩は少し無言で天井を見上げる。古い部室。雨漏りのあとのようなシミが浮き出た天井。黄ばんだ照明器具。窓の外からは野球部の金属バットがボールを打つ甲高い音が遠くから響き、合唱部の歌声も隣の校舎から届く。  青葉ヶ丘高校演劇部最大の危機を知らないままに。
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