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「この動物園にいるエスカープは、通常よりもかなり巨大なんだ。このサイズのエスカープがここに展示されていることが、少し前にニュースでも話題になったんだよ」
と、父は自慢げに息子に語りかけた。
男の子は水槽の中で泳ぐエスカープの姿を、目をキラキラさせながら細めて見つめた。そして、
「この大きさになるには、敵からどれくらい逃げてきたのかなぁ?」
と父に問いかけた。
父は思わず考え込み、しばらく考えた後、
「さぁ、この大きさだから、十回くらいじゃないのかな」
と返事をした。
「うーん、そうかなぁ……。僕、ちょっと計算してみようかな」
男の子の声は自信と好奇心に満ちていた。
父は息子の挑戦に微笑ましさを感じて、笑みを浮かべながら息子の話を聞く。
「エスカープは、逃げるたびに成長するって書いてあったけど、直線的に成長するんじゃなくて、少しずつ成長幅が小さくなるんだ。これはお父さんも知っているよね」
と息子は分析を始めた。
「ん?うん、そうだったな、えーと……」
父親は慌ててエスカープの展示水槽の脇にある案内モニターを息子に気取られないように見やった。
「確か……1回目は5インチ伸びるけど、2回目からは少しずつ増加して、そのうち成長は減っていくのではなかったか?」
父親の言葉を聞いた男の子は満足そうに笑顔を見せた。
「そうだよ。やっぱりお父さんも知っているんだね」
男の子は自分の手の平を開いて何やら指で数字をなぞり始めた。
「エスカープの成長は、逃げた回数ごとに減速するけど、最初のうちは速いんだ。例えば、最初の逃亡で5インチ成長して、その次は 5×1/2、その次は5×1/3といった具合で減っていくとする。つまり、n回目の成長は 5×nインチだ」
男の子は少し眉根にしわを寄せ計算を続けた。
「Sのn乗=5(1+1/2+1/3+……+1/n)でいいのかな?この式は、ハーモニック級数って呼ばれるんだ。nが大きくなるほどゆっくり成長するけど、合計は着実に増えていくんだよね、僕、合っているかな、お父さん?」
と男の子は若干不安そうに尋ねた。
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