ワーズテック動物園へようこそ

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ワーズテック動物園へようこそ

秋の穏やかな午後、澄んだ空が遠く青く広がり、風が木々の葉をそっと揺らしていた。 ワーズテック動物園の開放的だが幾何学的な雰囲気を感じさせる門の前で、父と背負われた幼い息子がいた。 小さな息子は父親の背でキャッキャと楽しげにしており、子どもの無邪気な笑顔が入り口付近の賑やかさに溶け込んだ。 「ねぇ、お父さん、この動物園って本当に変わった動物がいるんだよね?」 息子は目を輝かせながら、興奮を抑えられない様子で問いかける。その問いには大きな好奇心と少しの不安が混ざっているようだった。小さな声ではあるが、その一言一言が希望と冒険への渇望に満ちている。 「そうだぞ。貴重な動物がたくさん集められているから、今日は一緒にいろんな珍しい動物を見ようじゃないか」 父は背負った息子に優しく話し掛けながら、笑顔で答えた。その声には、我が子の興奮を損なうまいという父親としての配慮が感じられるものだった。 父親が来場者を管理するシステムにチケットを入れて手続きをすると、門がゆっくりと開く音が、やや乾いた金属音と共に響いた。二人は足を踏み出し、動物園の中へと進む。風に舞う木の葉が、二人の影にそっと寄り添うように落ちていく。 園内に足を踏み入れた二人を最初に出迎えたのは、よく知られた「ニットラビット」の展示場だった。 展示場には大きな映像モニターがあり、その映像には、草原を駆けるニットラビットの姿が映し出されていた。 さすがに園内の来場者の前で肉食獣に襲わせるわけにはいかないので、ニットラビットの展示場に設置された映像モニターで、野生のニットラビットが敵に襲われて、分裂して敵を攪乱する貴重な映像が流されていた。 動きはしなやかで、敵に襲われる瞬間、体がふたつに分かれ、まるで幻のように消えるシーンが繰り返されていた。男の子は映像を見て「うわぁ本当だぁ」と感心する。 「お父さん、どうしてあのウサギさんは二つに分かれるの?」 男の子は目を丸くして、不思議そうに映像を見つめた。
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