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「ほら、ウサギさんとかけ比べをしたっていう大昔のお話だよ。かけっこは速さだけじゃなくて、気持ちで勝てるってことを教えてくれるんだ!」
男の子はまるで自分が世紀の大発見者であるかのように、嬉しそうに言った。
父は感心しながら、
「そうだな。知恵と忍耐がこの生き物の強さなんだ。動物たちはそれぞれの生き方を持っているのが面白いな」と答えた。
「それにお父さん、アキレウスタートルがかけ比べをしたっていうウサギは、ニットラビットの祖先にあたるウサギだったって話もあるんでしょ?」
「そうだな。今頃、ウサギの方はもう一度かけ比べで戦ってやり返したいなんて考えているのかもな。さ、次へ行こう」
父の言葉には、息子の成長を感じるささやかな驚きと、それを受け止める優しい父性が感じられた。
父と息子は水族館ゾーンがある建物に足を踏み入れた。
エントランスには淡い青の照明が施され、まるで海の中にいるような錯覚を覚える空間が広がっていた。艶やかな南国の美しい海中を想起させるような、重厚な装飾を施したガラスの水槽が整然と並び、透明な水の中で様々な生き物たちが悠々と泳いでいた。
「お父さん、ここにあの魚がいるの?早く見たいな」
息子の声が弾むように響く。
父は微笑みながら頷き、息子の両手を掴んでとりわけ巨大な水槽の前に進んだ。
「さあ、これだ。見てごらん、あれが『エスカープ』だよ」
巨大な水槽の中で、逃避鯉という種に属する魚がその巨大な体躯をうねらせて、金色に輝く鱗を見せて悠然と泳いでいた。通名でエスカープと呼ばれるその鯉は、通常の鯉よりも何倍も大きく、光を浴びて美しい模様の鱗がきらめいていた。
エスカープは、敵に捕獲されそうになると全力で逃避行動を行うことで知られている。この鯉は危険を感じると、まるで捕獲者の腕や牙の間を疾風のようにすり抜ける。どんな原理で捕獲されずにいられるのか、いまだ謎が多い。さらに興味深いことに、逃げた回数に応じて体のサイズがどんどん大きくなるという、これまた謎めいた習性も持っているのだ。
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