第3話 罵られるだけでイッてしまうイヤラシイ女

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第3話 罵られるだけでイッてしまうイヤラシイ女

 学食でお昼を済まし、午後の講義までの時間をどうやって潰そうかとぼんやり中庭を歩いていると、不意に背後から声をかけられた。 「モエ発見!」 「え? サキさん!?」  唐突に肩を組まれて驚いてしまったのだけれど、相手がサキさんだと知って安堵した。同時に先日の軽音の部室での出来事がよみがえって赤面してしまう。 「さん付けとか堅苦しいな。呼びタメでいいよ」  他人を呼び捨てにしたことなんてないワタシは、そんなことを言われてもためらってしまう。 「ほら。あたしの名前、呼んでごらん?」 「ユ……サキ」  恐る恐る名を呼ぶと、彼女は満足そうに微笑んでくれた。 「よしよし。じゃ、行こうか」 「い、行くってどこへ……」 「いいから、いいから」  肩を組んだまま、グイグイと校舎の方向へと連れて行かれる。校舎に入って教室の前を素通りして、トイレまでたどり着いた。  肩を組んだままトイレに連れ込むと、一番奥の個室にワタシを押し込み、続いて自らも踏み入って後ろ手に鍵をかけた。 「こんな所で悪いけどさ、この前逃げられてから我慢できない訳よ……」  唇を重ねながら、ワタシの胸をまさぐる。 「待って。やめてよ。ねぇってば……」  キスから逃れるようにして、サキに懇願する。 「無理。中庭でモエ見つけた瞬間から止まんないの」  首筋をはう舌先の感触に、思わず膝の力がぬける。サキは便座に座ると、ワタシを向かい合わせに膝の上へと座らせた。細い指先がワタシのブラウスのボタンを次々と外していく。やめてと言おうとしたワタシの口を、サキの唇がふさいだ。  長いキスの後ワタシを抱きしめ、耳元で甘く囁く。 「ねぇ、いいでしょ。お願い……」  頼まれると断れないのは、ワタシの悪い癖だ。しかもこんなにも切ない声で請われてしまっては……。  部室で出会ったあの日から、ずっと探してくれたのだろうか。身を離して彼女の顔を覗きこむ。突き刺すような視線がワタシの胸をつらぬいたとき、ワタシはこの人に求められているんだ……そう思った。その瞬間に力が抜けた。気がつけば、サキにしがみついていた。 「声あげちゃ駄目だよ。解るでしょ?」  言い終わるより先に、ブラと胸の隙間に彼女の手が滑り込んできた。ワタシの胸をおおう手は即座にその中心を探り当て、指先で強くつまみあげる。突然のできごとに、小さな悲鳴を上げてしまった。 「声、駄目だって言ったでしょ。イヤラシイことしてんのバレちゃうよ?」  指先で転がされる刺激に絶えながら、何度も首を横にふる。 「あえぎ声出しちゃ駄目。わかった?」  声を押し殺しながらうなづく姿を見て、サキは満足げに微笑んだ。  首筋を舐めあげ耳たぶを()むと同時に、左手が背筋をはう。もれそうになる声を抑えこむのに必死だった。気がつけばサキにしがみついて、肩をかんで声を殺していた。彼女の上着の肩口に、ワタシの涎が濡れ広がっていく。  胸をまさぐっていた右手が徐々に腰へと向かい、器用にスカートをたくし上げていく。ゆっくりと時間をかけて、ワタシの下着があらわになった。  その時、誰かがトイレに駆け込んでくる音が聞こえた。足音が隣の個室に入った時、サキの右手が下着の中へと滑り込む。陰毛をかき分け裂け目へと到達した瞬間、味わったことのない感触に悲鳴を上げそうになってしまう。快感が背筋を駆け上がり、思わずのけぞってしまった。それでも何とか、声をあげることだけは我慢した。  隣に気づかれていないか気が気ではなかったけれど、そんな事を確かめている余裕なんてなかった。サキの指先がゆっくりと股間をまさぐるたびに快感が体中を駆けめぐり声を上げそうになってしまうのだけれど、息を止めてなんとか声を殺した。隣に人がいると知りながら、サキは攻める手をゆるめてくれない。ワタシが耐える姿を見て楽しんでいる。  隣室から水を流す音が聞こえ、足音がトイレの外へ遠のいていくのと同時に荒く息をついた。緊張が緩むと同時に気づいた……今までにないほどに濡れている。サキの指先がビチョビチョといやらしい音をたてていることに驚いて、自らの手を下着の上から当ててみる。おしっこでも漏らしてしまったかのように、下着がぐっしょりと濡れていた。 「イヤラシイね。こんなに濡らして……」  サキの言葉に感じてしまったのか、激しさを増す指の動きに耐えきれなくなったのか、次の瞬間には絶頂へと達した。あまりの快感に我慢ができず、おもわず声を上げてしまう。トイレには誰も居なくて事なきを得たのだけれど、サキは約束を守れなかった罰だと言ってその後も指の動きを止めてくれなかった。絶頂の余韻の上からまさぐられ、時をおかずしてまた達してしまう。 「何回イくつもりよ。イヤラシイ……」  耳元で囁かれた乱暴な言葉にまで感じてしまい、またもや絶頂を迎える。 「罵られてイくとか、どんだけ変態なんだよ」  涎だらけになってしまったサキの肩に顔をうずめて、ごめんなさい、ごめんなさいと小さな悲鳴をあげながら再び絶頂を迎えてしまった。 「言ってごらん。罵られるだけでイッてしまうイヤラシイ女です……って」  無理だ。そんな恥ずかしいこと……言える訳がない。  サキを見つめ、懇願するかのように首を横に振る。彼女の瞳に冷たい炎が灯り、不意に指の動きがとまった。 「言えないのなら。おしまいだね」  下着から抜き去ろうとする腕を、とっさに押さえて止めた。 「どうしたの?」  サキが意地の悪い笑みを浮かべる。  さっきとは違う意味で、ワタシは首を大きく横に振った。  目をつむって、彼女の首筋に顔をうずめる。 「の、罵られるだけで……イッてしまう……」  顔が火照っていくのが判る。ワタシの顔、きっと真っ赤になっているはずだ……。 「イ……イ、イヤラシイ……女です。だから……」 「だから?」 「して! もっとして! お願い!」  耳元で発したワタシの小さな叫びに応えるように、サキの指先が核心をとらえる。それだけでまた、達してしまった。その後もサキに導かれて、数え切れない絶頂を迎えることになった。  トイレの一件からワタシはもうサキに夢中で、相手が女性だとかそんなことはどうでもよくて、あの日からずっとサキのことばかり考えている。  サキは週に一回くらいのペースで、ワタシの部屋に来てくれる。  初めてお互いが服を脱ぎ捨てて愛し合う日、手首や二の腕の傷を見たサキがワタシのことを嫌ってしまうんじゃないかと考えて怯えた。でもサキは何も言わずに手首の傷痕に舌をはわせてくれたし、二の腕の傷痕に口づけをしてくれた。それだけでもうワタシの全てを受け入れてもらえた気がして、サキのことが好きで好きでたまらなくなってしまい、彼女の胸に顔をうずめて泣きじゃくってしまった。  トイレでのセックスは……いや、女の子同士の行為もそう呼ぶのかは解らないけど……とにかく大学のトイレでの出来事は刺激的だったけど、それよりも自分の部屋でゆっくりと時間をかけて肌を合わせる方が好きで、滑らかな女の子の肌同士が水も漏らさない感じで重なり合っているところに汗や唾液が潤滑油みたいになってツルンとすべる感触が特に好きだ。経験のないワタシがいちいち恥ずかしがるところが初々しくて良いって言ってくれるし、サキが喜んでくれるのならどんなに恥ずかしいことだって耐えられるような気がする。  長い時間をかけて舐めたり舐められたり擦ったり擦られたりしながら、ふたりの体が汗とか唾液とか粘液でベタベタになっていくのがとても良くて、このまま体液にまみれ続けていれば二人が溶け合って一つになってしまうんじゃないかと期待に胸を高ならせてしまう。  けれどもやっぱり一つになれるだなんてことはなくて、サキはサキだしワタシはワタシだ。どれだけ求め合い絡み合ったところで、しょせんは別々の人間でしかない。どんなに頑張ったところで、一つになんてなれないのだ……。  そして求め合うことすらサキにとっては刹那の感情でしかないことに、私は気づいてしまう。特にそれは、彼女のステージを観に行くと強く感じる。  観客を叩き伏せるかのように奏でられる彼女の音楽のファンは多いし、ライブがハネたあとに出待ちをするファンだってたくさん居る。その中には、肉体関係があるんだろうなって思う人だって何人も居る。そういう事は、遠目に見ているだけでも判ってしまうのだ。  ワタシなんて、数多く居るサキのグルーピーの一人でしかないのだ。でも、それでいいと思っている。サキを独占したい気持ちは、もちろん在る……強く在る。けれども独占したい気持ちなんてワタシのエゴでしかなく、そんなものでサキを縛ってしまうのは何だか違うような気がしていた。
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