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《アナタ達ガ、今回のチームか》
突然の機械的な音声に、Jはバッと振り向いた。宇宙船という密室に現れたのは――。
《初メマシテ、地球人。我々はバルン星から来た者ダ》
Jから見て天井に当たる壁に、人型の生物が逆さまに立っていた。肌は硬そうな褐色で、頭にはキツネか何かのようなチクチクした毛。クリーム色の無地の服を着ている。
「な、何の冗談だ? どこから入ったんだ!?」
仲間が声を荒げると、その生物、バルン星人は丸い真っ黒な目をそちらに向けた。
《驚かせたヨウダナ。空間の『穴』を通レバ簡単ニ入れる。ちなみに、コノ宇宙船の通信システムは全テ管理下に置かせてモラッタ》
J達三人は息を呑んだ。本題に入ろう、とバルン星人の歪な声は続く。
《ワタシは、アナタ達に提案ヲするために来タ。『ゼット』という『亜物質』を集めるノニ協力シテほしい》
「ゼット? それは一体?」
別の仲間の問いかけに、バルン星人は同じ調子で答えた。
曰く、ゼットは特殊な装置で観測することができる、物質とも非物質とも言えない存在らしい。たまたま太陽系にやって来たバルン星人は、地球の周辺、つまり宇宙ゴミの多いエリアに、たくさんのゼットがあることを発見して、それを採取している最中だという。
ゼットを一定量集めると、願いを叶えることができる。そう説明したバルン星人は、天井、壁と平気で歩いてきて、Jの正面に立った。
《体に力が入ってイル。その反応ハ『恐怖』だろう?》
「いや。これは興奮しているんだ」
Jはニヤリとして前に進み出た。
「願いが叶う物質なんて初めて聞いた! 最高じゃないか。へへ、それって、どんな願いでも叶うのか?」
《ゼットが生むエネルギー量を超えない内容でアレバ。物体を生み出すことハ比較的容易ダ》
「おー、それはいい! 喜んで協力させてほしい」
「お、おい。何言ってるんだ? 俺達にはミッションがあるだろ? それに、突然侵入してきた宇宙人を信じるのか?」
「彼の言う通りだよ」
口を挟んできた仲間達に、「何言ってるんだ?」という言葉を返してやりたかった。Jはハハッと笑うと、首を横に振った。
「ゼットの価値が分からないなんて、憐れな奴らだ」
《彼らは反対のヨウだ。だが、地球人は一人いれば十分ダロウ》
バルン星人が四本指の細い腕をスッと上げる。たちまち、何もない空間に別のバルン星人二人が出現した。抵抗むなしく、Jの仲間達はその二人につかまれ、あっという間に四人とも姿を消してしまった。船内に残されたのは、Jと、最初のバルン星人のみ。
《彼らのことは研究ノ材料ニしよう。トコロデ、胸の拍動が速くなっているが、ソレモ『興奮』か?》
Jは口角を吊り上げる。
「そうだ。俺はまず、何をすればいい?」
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