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 ゆっくりとまぶたを開く。  いつもそこで終わる、ある夏の記憶。  あの男は、何と続けたのだろう。  知らない音、知らない場所、知らない声。  僕は半ば確信をしている。あの男はきっと…… 「おい、今何時だと思ってる! さっさと働け!」 「……」    返事をしたところでどうせ一階には届かないだろうから、僕は言葉を呑み込んだ。  階段を下ると、父さんは居間で朝から酒をあおりながらテレビに悪態をついていた。少し手を伸ばせばゴミ箱があるのに、使ったティッシュやら何やらが床に散乱している。 「馬鹿野郎、打てよ! こいつはもうだめだ!」  見逃し三振をした打者に、舌打ち混じりに戦力外通告をする。父さんは監督じゃないのにと思いながら、絶対に口には出さない。  テレビの前を遮らないよう、僕はそそくさとちゃぶ台の上の食器やごみを回収する。  その時、野球中継が一旦止まり、ニュース映像に切り替わった。父さんはお酒が回った身体をよたよたと起き上がらせて、トイレに向かう。束の間の自由に、僕はぼうっとテレビ画面を眺めた。 「海岸には多くのボランティアが集い、ゴミの撤去が始まっています」  オレンジ色のゼッケンを来た老若男女が、砂浜に転がるゴミを拾っては手に持った袋に集めていく。中には僕よりも大分小さい子どももいて、両親に手伝われながらも必死にゴミ拾いをする姿に、僕は執着にも似た何かを感じた。 「おい、邪魔だどけ」 「……ごめんなさい」  トイレを済ませた父さんが戻って来て、僕は急いで残りのゴミを集める。上手く持ち上げられなくておたおたする僕に、父さんは苛立たし気に舌打ちをした。僕は、先程の戦力外通告を受けた選手を思い出してぞっとする。  画面の向こう側のあの子は上手にゴミ拾いが出来なくても、両親に愛おしそうに抱きしめられた。僕の胸の内で、黒くてドロドロした何かが渦巻くような感覚がする。臭くて汚い膿のような、きっとあの子は抱かないだろう感情が。  僕とは、根本から違う。  だって、僕は……
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