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断罪聖女は集めたい
鐘の音が三度響く。荘厳な音色は異端者の罪を告げ、裁くものの不浄を祓い、聖堂の大気を浄化する。
聖堂の奥、いと高きところから異端審問官たちを見下ろすのは女神の伝承をモチーフとしたステンドグラス。陽光がステンドグラスを通して七色にきらめき、一段高い席についた異端審問官の僧服を照らす。
遠く聞こえる喧騒は教会のまわりに集まった庶民のものだろう。審問は非公開であり、教会関係者以外は穢れを阻むために敷地への立ち入りを禁じられている。けれど少しでも早く結果を知りたい野次馬が集まり、屋台まで出る始末。
騒ぎをかき消すようにまた鐘が鳴った。
異端者入廷を告げる鐘である。
左右を屈強な兵に囲まれ、両手を魔力封じの枷で戒められた罪人の姿に、審問官は息を呑んだ。
若い娘。十代半ば、水晶を薄く引き伸ばしたような色素の薄い髪を背に流した娘が唇を引き結び、凛と背筋を伸ばして歩いていく。
障気を祓う力をもつ聖女マリアンヌ。
魔女として告発されたのは、この王国の重鎮ともいえる少女である。
「マリアンヌ・イアクリナ。貴女は魔物の障気を収集し、この国に対する謀反を企てた。間違いありませんね」
中央に座る老齢の異端審問官が厳かに告げる。
口調こそ柔和だが皺の奥の眼光は鋭い。数えきれないほどの異端者を処刑台に送ってきた実力者を前に、少女は眉ひとつ動かさず応じる。
「わたくしは障気を集めました。しかしそれは謀反のためではありません」
「ではなんのためと」
「性癖なのです」
沈黙。
老齢の異端審問官が左右に首を振った。最近耳が遠くなってきたのが彼の密かな悩みでもある。ちらりと両隣を盗み見ると他の審問官も同様に眉を寄せている。
困惑する審問官たちを前に少女は唇の端を吊り上げた。
「言葉が足りなかったようですわね。わたくし、魔物から障気の殻を剥がすのが大好きですの。できれば形を保ったまま剥がしたいですし、釣果として殻を取っておいて後で見返すと自己肯定感爆上がりですのよ」
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