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ですが、母の様子はおかしくなっていくのです。喋らなくなり、笑わなくなりました。
そんな母をずっと献身的に支えていた父は、一昨年の夏に突然姿を消してしまいます。理由は分かりません。元気だった頃の母を知っている彼は、数年経っても事実を受け止めきれず、遂には逃げ出してしまったのかもしれないです。母だけでなく、私も置いて。
父がいなくなってからは、私が母を支えています。もちろん、ヘルパーさんの力もお借りしながらですが。
しかし、正直なところ、もうこんな生活は懲り懲りだと思っています。なぜなら、私の幼少期は知らない人たちの記憶で埋まっているからです。元気だった頃の母の姿など知らないからです。母親らしいことをしてもらった覚えもないのに、私は彼女の面倒をみなければいけません。
病院から帰って、家に到着しました。リビングには、電源のついてない黒いテレビの画面を見つめている母がいます。これが、いつも通りの母。笑わなくなって口元がたるみ、ブルドッグみたいな顔になってしまった人。これが、私の母なのです。
この人に可愛がられていた幼少期を、私は想像することさえできません。そんなわけがないと思ってしまうのです。
でも、この人も今のような姿になりたくてなったわけじゃありません。そう考えると、やはり可哀想だと思ってしまいます。私が支えてあげないといけないのです。
今日は久々に、母と一緒にテレビを見ようかなと思いました。昔のように。私の知らない、私の幼少期の頃のように。
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