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真愛(後編)
「皆様の素晴らしい貢献にも助けられ、
今や帝国はアンドロメダ銀河をも含む銀河間国家に発展し、
知性がもたらす文明の光が遍く行き渡る、
輝かしい繁栄を謳歌するに至っています」
旧帝国の残党はアンドロメダ銀河に逃亡し、
その一部を占拠して銀河系への反撃を企てた。
だが逃亡政権の強権統治は先住種族達の抵抗運動を招き、
種族の育成と自治を重んじる新帝国への参加を促した。
そして以降も新帝国側種族の懸命な努力は続き、
ついには逃亡政権の降伏と、
二大銀河を含む局所銀河群の統一という形で実を結んだ。
悲劇的な内戦は、ようやく終結を迎えたわけだが……。
「以上から特に本年、次のようなお知らせが
できることは、私達の最大の喜びです。
すなわちここに私達、旧帝国の文明開発長官にして
新帝国皇帝である種族サタンは、
理事種族アスモデウス、アスタロト、ベール、
バールゼブル及びアモンの賛同を得て、
このたび量子頭脳への人格移転を達成した人類を
最先進種族と認定し、大いなる感謝と祝福を表明します」
やれやれ、とうとう私達も悪魔の仲間入りか。
とはいえ人類の方でも大喜びのお祭り騒ぎで、
むしろ彼女達を新たな大天使に叙任しよう!
という動きまであるという(笑)。
それだけ〝不老不死〟社会への移行開始や、
星間社会での地位向上への期待は大きいのだろう。
まあ彼女達は異星種族なので、爬虫類人や鳥人間に
昆虫人、合成体さらには大陸規模の集合意識生物と、
姿形も文化も多様性を極める。
お互い様だが、昔の人なら百鬼夜行と恐れたかもしれない。
しかしいずれも自由と公正、平和、民主主義という
新国家の理念を支えてきた立派な種族達だ。
しかも彼女が言うように、新技術のおかげもあって
種族間の壁は急速に取り払われつつある。
そもそも彼女達は〝先帝〟を神に見立てた神話で悪役を演じ、
人類など多くの種族の文明化を助けた、いわば功労者であり、
実際には〝神〟の最も忠実な臣下だったともいえる。
また、善悪二元論の神話が採用される以前には、
発展途上にあった我等の地球や他の星々において、
より古い多神教神話の神々を演じていた連中も多い。
「これにより人類の皆様は、帝国議会の被選挙権と共に、
理事種族への選任資格も獲得されたことになります。
偉大なる発展を遂げられた皆様の、
今後のさらなるご活躍に期待いたします……」
さらに考えてみると、こうした多種族共生の流れは、
まだまだ〝新参者〟の人類にとっても、
〝古き種族〟達と同等に扱ってもらえるという点で、
有難い話でもある。
それはまた、ある意味では必然ともいえる
成行きだったのかもしれない。
なぜなら昔、イスラエルのY・N・ハラリという
歴史学者が次のように語った。
「人類は高い技術を得れば、神や悪魔に近づく。
どうせなるなら〝責任ある神〟になるべきだ」と。
そして今、神や悪魔や人間、異星人の区別がなくなり、
互いのために全てを活かせる時が来た。
かつては相互理解さえ不可能とされ、
破滅的戦争の理由にもなった種族間の相違が、
現在では万聖節前夜祭の子供達の仮装のように
可愛らしいものとなりつつある。
それ以前には日本のある作家が、
「争いは愛のないところに起きるのではなく、
愛が遮られるところに起きるのだ」
とも語っていた。
しかし、高度な技術と政策のおかげで、
他の誰かを悪者にして一緒に叩いたり、
不運な誰かの犠牲を耐え忍んだり
しなくてもすむ時代が、やっと来た。
人道的手段で自分達自身を高めて活かすことにより、
「汝の敵をも愛」し、
「誰ひとり取り残さない」ことが
宇宙規模で実現可能になったというわけだ。
全ての種族が尊重し合える普遍的な愛、
〝真なる愛〟の時代の到来だ。
もしもいるなら本当の神様だって、
きっと喜んでいるに違いない。
今日は地球暦の十二月二十五日。
彼女達が人類にもたらしてくれた
地球で最も有名な神話のひとつで、
救い主の誕生を祝う祝祭日である。
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