1-5話 夜明けとアクアマリン

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1-5話 夜明けとアクアマリン

【登場】マロウブルー(兄/妹) ロシアンティー / ミントティー 【執筆】霧谷朱薇  夜明けの紅茶。  その名の通り、僕の朝は早い。  黄昏の庭園に時間の概念はない。  だけど、どういう訳か正確に時間を把握する能力を持って生まれた僕は、毎日同じ時間に目を覚まし、数種のハーブを栽培しているハーブ園の水やりをする。  それが終わったら、ゆったりとした足取りで散歩をしている(じい)ちゃん……ラプサンスーチョンに挨拶をして、厨房で軽く朝食の準備を済ませた後にフライパンとおたまを持つ。  何故かって?まぁ見ていろ。   「朝だぞ、起きろ! 野郎どもは朝食運ぶの手伝え!」  黄昏の庭園に建つ屋敷で生活をしている化身は多く、彼等が不規則な生活を送らないようにこうして毎日歩く目覚まし時計の役割もしている。  そうこうしていると、深層で一度は目を覚ましていたものの直ぐに船を漕いでいた〝妹〟が、(ようや)く『おはよう……』と重い目蓋(まぶた)を開けた。  因みに、マロウブルーが夜明けの紅茶と呼ばれる所以(ゆえん)は、レモン果汁を垂らすことで水色が変化するという性質があるからで、それが二重人格という形で僕と〝妹〟は存在している。  欠伸を零しながら食堂にやって来る化身たちを一瞥(いちべつ)すると、僕も席に着いて彼等と一緒に食事を()る。  とまぁ、大体こんな感じで朝の時間を過ごすんだが。 『どうしたの、兄さん』 「いや、なんか……今朝はレディーからの熱烈な視線を感じてだな……」 『女の子とは限らないんじゃ?』 「野郎の視線はノーセンキュー」  ふん、と鼻で笑うと、〝妹〟はこてん、と不思議そうに首を傾けた。 『性別なんてどうでもよくない?』 「時と場合による」と答えると、昨日の夜更かしがたたったのか睡魔に襲われて〝妹〟と入れ替わった。  昼食を終え、各々自由に過ごしているなか。 「ロー、遊んで」  一人、屋敷の廊下を往くロシアンティーの服の(すそ)をくい、と掴んだ。  振り返ったロシアンティーは僕の髪色を見て〝兄さん〟でないことに気付くと「やぁ、妹ちゃん」と薄く笑う。 「今から行くところがあるから、また夜にね」 「んん……つまんない」 「悪いね。お詫びといってはなんだけど、一つ良い事を教えようか」  そう言って目線を合わせるようにしゃがむと、ロシアンティーは内緒話をするように唇を耳元に寄せた。 「廊下の角に、キミと仲良くなりたそうな子がいるから声を掛けてあげたら?」  流石ロシアンティー、影の薄いあの子に気付いていたなんて。 「おや、その様子だと気付いてたみたいだね。ま、どうするかはキミに任せるよ。それじゃあ」  ひらひらと手を振ってその場を後にするロシアンティーを見送ると、前髪の奥から僕を見つめる瞳をちらりと見やった。  そういえばあの子の瞳、見たことないなぁ。  どんな色をしているんだろう。  そう思ったときには視線を送っていた主の前に立っていた。  ええっと、この子の名前は確か……。 「こんにちは、ミントくん」 「……!」  突然僕が声を掛けたからか、ミントティーは驚いたように肩を跳ね上げて縮こまってしまった。 そんなミントティーにほんの少しだけ申し訳ないと思いつつも、好奇心に負けて許可を取る前に彼の前髪を掻き分ける。 「……うう。恥ずかしいから、あまり見ないで……」  アクアマリンのような、爽やかで涼し気な淡い水色の瞳が、気恥ずかし気に揺れている。 「……ミントくんの目。すごく綺麗なのに、どうして隠すの」 「それは……」  恥ずかしがり屋なのかな。それなら仕方ないね。   口籠るミントティーに、数日前外界で買ったマシュマロを一つ手渡すと、 「そろそろ陛下とお喋りする時間だから。また遊ぼうね」  ダージリン陛下の寝室まで走っていった。  別に走らなくても良いんだけど、そういう気分になっちゃったのね。  「あ、……ありがとう……」  ぼそりと呟かれた声が耳に届くと、いつの間にか起きていたらしい〝兄さん〟は口許(くちもと)を緩めた。  素直な子は好きだもんね。  それからというもの、ミントティーの視線は更に熱くなったけれど。  その御話(おはなし)は、またの機会に。
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