憂々誤々

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「惑、13歳の誕生日おめでとうー!」 13年も生きてしまった。 北川惑(きたがわ わく)。今日で13歳になりました。 この世に生を受けて早13年。その半分くらいは、死にたいって思ってた。 別に、虐待されてるとか、虐められてるとか、そういう訳じゃない。 ただ、こう、漠然と生きているのが嫌だ。 生きてるって実感する瞬間が嫌だ。 例えば――ほら、今みたいに。 「クラッカー鳴らすよー!」 パーン、という音が響き渡る。 こんな感じの、耳に直接衝撃が来る瞬間とか。生きてるって感じがする。 あとは、食べ物を食べて、味を感じる瞬間とか、匂いを感じる瞬間とか、五感を活動させてる時がすごく不快だ。 これはいつから生まれた感情なのかは分からない。ただ、もう気づいた時には死にたいって思ってた。 誕生日パーティーが終わって、自分の部屋に戻って、風呂に入って、寝る。 僕は明日、死のうと思ってる。 誕生日の翌日に死ぬなんて、なんとなく良いと思わない?そういうロマンは、感じてたりする。 そんなことを考えながら瞼を閉じる。 朝日が目に直撃する。眩しい、と感じて不快になって、起こされる。 今日は自殺の決行日。ああ。やっと死ねるんだ。 自殺の方法は薬の過剰摂取。言わばオーバードーズだ。 市販薬は大量に買い込んだ。 なんでこの方法を選んだのかっていうと、1番親に止められにくいと思ったから。首吊りは準備段階で止められそうだし、あと普通に飛び降りは怖いかも。安楽死は日本では出来ないし、そうなるとこれしか方法がなかった。 紫色の咳止め薬の箱を乱暴に開ける。大体20箱。これだけあれば死ねるだろう。シートから錠剤を取り出して一気に口に放り込む。 1回で5錠位は飲めた。適正量が15歳以上3錠だから、13歳の僕にとってはもう適正量じゃない。 それを何度か繰り返す。 しばらくすると、10箱は空になっていた。 20箱買ったけど、20箱も要らなそうだな。10箱でも十分死ねそう。あとは学校に行って、具合が悪くなって、死ぬだけ。学校には行かないと親になにか言われそうでやだし、最期の場所が学校なのもなんか良い。家はちょっと思い出がありすぎる。学校はまだ1年も通ってないし、思い出がないから安らかに死ねそう。 そんなことを考えながら、僕は学校指定のリュックを背負う。このリュック、ダサいんだよなあ。まあ、みんな背負ってるからあんまり気にならないけど。 いつもと変わらない通学路を歩く。通学路はいつもと変わらないけど、僕はいつもと違う。もう死ぬから。そう思うとなんだか心が軽くなってきて、足取りも軽やかになる。スキップしちゃいそう。そんなことしたら周りから変に思われそうで出来ないけど。少し走るくらいはいいか。ちょっと走ってみよう。 そう思い、真夏の炎天下の中僕は爽やかな気分で少しだけ走った。すると突然、目眩が襲ってくる。 もう、薬の効果が出たのか。でも、学校まで辿り着かないと道端で死ぬことになる。こんなところで死んだら死体がこの炎天下にさらされて臭くなる。臭いのは嫌だ。学校までは頑張っていこう。
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