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毎日、毎日。
爆音の車を何とかしてくれという近隣住民からの苦情のせいで、わしと羽村は呼び出されていた。
羽村が赴任して来てから、ずっとこの調子で、相手が帰ってこない時は夜まで駆り出される。
あーー、早く次のコレクションが欲しいのに……。
何も動けないじゃないか。
イライラしていたわしだったけれど、爆音の車の持ち主は福の神だった。
貧乏くじを引かされていると嘆いていたが、そうではなかった。
彼らが連れている女性は、わし好みだ。
物心ついた時から、真っ赤なマニュキュアを塗った指が大好きだった。
そして、ぼってりとした、たらこみたいなピンクの唇も……。
最初は、たいした事はなかった。
付き合って、唇や指に触れるだけで満足だった。
しかし、次第に飽きてきたのだ。
彼女になったとて、24時間いれるわけじゃない。
どうしても、四六時中あれに触れていたかった。
シリコンの模型を買って集める事にしたけれど、やはりあれには似ていなくて残念だった。
仕方ないから、もう、取りに行くしかなかった。
だから、少しずつ取りに行っていたんだ。
死んだってわからない人間から、もらって集めていた。
なのに、ここ最近はそんな場所にも行けずイライラが募るばかりだった。
だけど、神様はいるものだ。
まさか、コレクションの方からこちらにやってきてくれるなんて。
正直、爆音の車の注意など、どうでもいい。
わしが見ているのは、その隣にいるものだ。
羽村が電話をすると言うから、一人で部屋に向かう。
「はあ?なんだよ、それ」
「すみませんが、少し静かにして欲しいらしいんです」
「はあ?ぶざけんなよ!車検通るんだよ」
いつものごとく、怒られる。
22時まで、待ってやったというのに感謝ぐらいしろよ。
隣に佇む女を見る。
ポタポタ……とヨダレを垂らしたいぐらいタイプだ。
本当に、いいものを持っている。
いつにしよう?
明日にしようか?
来週か?
そんな事を考えるだけで、幸せで満たされる。
気づけば、わしは車に戻ってきた。
羽村が、指紋をとりたいと言ってあの部屋に向かう。
わしは、ポケットから電子タバコを取り出して吸い始める。
さっきの女は、上物だった。
ああ、早く。
コレクションにしたい。
持って帰って、飾りたい。
眺めたい。
触れたい。
ーーーーー羽村のやつ遅いな?
指紋をとるためにどれだけ時間がかかってるんだ?
車から降りて、羽村の元に行くか?
いや、いや。
そんな事をしたら、怪しまれる。
いったん気持ちを落ち着かせよう。
毎日、持ち歩いている。
コレクションの一部を、左胸のポケットから取り出した。
やはり、感触がいい。
シリコンとは違う。
気分がほぐれる。
癒される。
早く家に帰って、手を触りたい。
ああ。
早く。
帰ってきてくれ、羽村。
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