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思ったより服が汚れてしまったので男は着替えてから、依頼主の屋敷に行った。もちろん、宝石は洗って磨いておく。
依頼主は立派な応接室で待っていた。もう、暖炉には火が入っていて、暖かく快適だった。
「どうぞ」
白いハンカチに載せて、黒い宝石を差し出す。
依頼主は長い指で優雅につまむと、シャンデリアの光にかざした。
「素晴らしい。ジャック、流石だ」
依頼主はなぜか、男のことをジャックと呼ぶ。最初に男が名乗った名前を偽名だと思ったのか。いや、偽名のままでもいいはずなのに、なぜ、わざわざ、呼び名を変えるのだろう。
依頼主は飾り棚に行くと、宝石を置き、熱心に眺めた。男もついていって、覗き込む。黒い宝石が二段に並べられている。奥の一段の宝石は小ぶりで輝きも少ない。男が仕事を請け負うようになった時、すでに並べてあった宝石だ。
手前の五つの宝石は全て大きく、強い光を放っている。全て男が取ってきた宝石だ。どうやって取ってきたか、誰よりも知っているのに、それでも、美しく、心を惹かれてしまう。
「次にお願いしたいことがあるのだが」
依頼主が微笑む。上品で非の打ち所のない男。なぜか、人の体に宝石が生まれることを知っていた男。奥の段の宝石はあなたが取ってきたのですか? 聞いても無駄な問いが心に浮かぶ。
「新しい宝石を集めたいと思っていてね。そうだなあ。白はどうだろう?」
男は自分の不安を押し殺して、うなずいた。
黒は絶望の色だった。
じゃあ、白は何の色だろう。
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