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メアリー•ジェーン•ケリーは足踏みをした。
そんなことをしたって身体はあったまりはしない。石畳から冷気が上がってくるような気がする。
ジンの一杯でも飲んでいりゃ、まだ、我慢できたかもしれないけど。でも、まずはお足を稼がなきゃ。
ガス灯のそばに娼婦が多いのは最近、殺しが続いたからだろう。娼婦が狙われてるというので、みんな怖がっている。仲良しのキャシーはしばらく休むと言っていた。メアリーにはもうそんな余裕はない。
今日は何としても客を捕まえるんだ。
ぶるっ。急に寒気がして、メアリーは弱気になった。
やっぱり、帰ろうか。もう一日ぐらいなら、なんとかなるかも。
「いいかい?」
声をかけてきた男がいた。
メアリーはさっと相手を値踏みした。なかなかの洒落者だ。金がありそうなのにわざわざ、ホワイトチャペルに来るとは変な性癖があるんじゃないだろうね。
そう思いながら、うなずいた。
男は手にした袋をちらりと見せた。ジンの瓶の口がのぞいてる。
思わず、喉が鳴った。
「うちでどう? すぐ近くだから」
呑みたくてたまらず、思わず、誘ってしまった。
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