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「貴様の得物をもらうぞ」
「お前が武器ハンターかっ」
人里から少々離れた岩場で、二人の男が剣を抜いて対峙していた。どちらも実力者と見え、辺りの空気は張り詰めている。
やがて、ハアッと声を上げて、片方が突っ込むと――。
「すげえ」
「何て気迫だ……!」
一際大きな岩の陰から、そんな押し殺した声が聞こえてきた。リンガはフラリと岩の裏側に回ってみる。
「これはこれは、リンガさん」
先日会った商人、マチャが、丸い体を揺らしながら近寄ってきた。
「どうも。盛り上がってるみたいだね」
「お陰様で!」
岩の裏側は大きく削られていて、岩というよりカーブする天然の壁のようだった。七、八人の大人達が、その壁にくっつくように立っている。壁には何ヶ所か穴が空いていた。向こう側の戦いを隠れて見学するためのものだろう。
この「武器ハンター観戦ツアー」を企画したマチャは、ホクホク顔だ。
「ルーボス様は素晴らしいですよ。毎回白熱した戦いを見せていただいてます」
「それはよかった」
国中に『武器ハンター』の名を轟かせる。ルーボスのその言葉を聞いて、マチャはこのツアーを思いついた。まず、武器ハンターに興味を示した冒険者に、遭遇できる秘密の場所としてここを教える。その一方で、ハンターと冒険者の戦いを見たい人々を募集し、ここまで引率する訳だ。
確かに、これなら冒険者だけでなくツアー参加者も、武器ハンターの噂を広めることだろう。ルーボスも憎き冒険者と戦うことができる。そしてマチャは儲かる。
「上手いこと考えたよな」
「こうしてお金を集めるのが、我々商人の仕事ですから」
「うん、勉強になったよ。それにしても、あの場面に割って入ってきた度胸は、商人よりむしろ冒険者みたいだったな」
そのお陰で、提案に関心を持ったルーボスが剣を収めることになったのだ。マチャにはいつかお礼をしなければ。
ふと、ルーボスはこれでよかったのだろうか、と思ったが、まあ、彼の人生のことは彼自身でどうにかするだろう。
「お褒めにあずかり恐縮です。ところで、リンガ様も一つ、この商売にご協力いただけませんか?」
にっこり笑うマチャに、リンガも軽やかに笑った。
「俺はやめておく。人とは戦わないって、おばあちゃんと約束してるし……集めるなら名声かな。俺の目標は当代一の英雄になることだから」
「これはこれは、お見逸れしました」
お辞儀をするマチャと別れて、リンガは岩の多い風景の中を歩き始めた。腰に下げた、人から譲り受けた高級レアの黒い剣と共に。
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