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「お邪魔しますも何も、自分の実家だと思って甘えなさい」
「それが難しくて……」
八木沢くんと親しそうに接する母親に、やきもちを焼いたって仕方がないのはわかっている。
こんなにも同居人と距離を縮めるのが上手い母親に文句を言ったところで、自分のコミュニケーション能力が向上するわけでもない。
「八木沢くん、遠慮しないで」
英語の教材を放って、俺は八木沢くんの元へと駆けつける。
「いや、でも、こんな夜遅くにクラスメイトの家に帰って来るとか……」
いつまで経っても遠慮がちな八木沢くん。
そこが八木沢くんらしいなと感じつつ、同居人が小学生の頃から変わっていないところに感激したりもする。
「夕飯はいる?」
「……軽く」
「手洗いうがいを済ませたら、座って待ってて」
八木沢くんに夕飯を用意できることが堪らなく嬉しい。
そんな自分の喜び溢れた笑顔を気持ち悪いと思われてしまったのか、八木沢くんはキッチンで作業する俺を無視して洗面所へと向かってしまう。
「母さん、八木沢くんの夕飯を用意するのは俺の役目!」
「はいはい」
いつも母さんに家事を任せているけど、八木沢くんと暮らすようになってからはほんの少し料理を手伝えるまでに成長した。
「さっさと部屋、戻って」
「お母さんも八木沢くんを拝みたい」
「明日、目の下に隈ができるよ」
母親とのバトルの末、勝利したのは俺。
母親はテレビの電源を切って、おとなしくリビングから去る準備を整え始める。
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