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「嶺矢くんが出て行く前に、料理上達して良かったね」
去り際に母親がかけてくれた言葉は褒め言葉。
それなのに、自分の顔はあまり喜んでいないっていうのが自分でも分かってしまう。
(八木沢くんが、出て行く日か……)
小学生のときから付き合いのある八木沢嶺矢は、現在通っている高校のクラスメイトでもある。
そんな脆い関係、高校を卒業してしまったら潔く切れてしまうのは分かっている。
それなのに、自分は八木沢くんのことを崇拝したまま十年という年月を過ごしてしまった。
「おやすみ~」
「おやすみ」
俳優として活躍する八木沢くんに感謝の気持ちを伝えたくて始めた夕飯作りだけど、高校を卒業したら赤の他人の味なんて忘れてしまう。
八木沢くんが薄情とかそういうことじゃなくて、赤の他人の手料理なんてたいして記憶に残らない。
大切な人の味だから、記憶に残ることができるってことを言い聞かせていく。
「八木沢くん、もっともっと売れてくんだろうな……」
誰もいないリビングに零れる独り言。
「八木沢くんが飛躍できるように、恋愛禁止を徹底……」
どこのアイドルだよってツッコミが飛んでくるのだって想像できる。
でも、俺にとっては俳優もアイドルも同じ。
芸能人は恋愛をしたらダメっていう俺の考えに間違いはないと思っている。
「お疲れ様」
「あ、支度できたよ!」
ダイニングテーブルの上に、夕飯で食べた残り物と八木沢くんのために作った料理を並べていく。
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