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「いつも通り、小鉢に入っている物は好きなだけ食べて」  こんにゃくの煮物。  れんこんのきんぴら。  タコの唐揚げ。  麻婆豆腐。  ポテトサラダ。  八木沢くんのために料理を作りたいと張り切ったはいいけれど、これだけバリエーションのある料理を作る時間も余裕も高校生にはない。 「今日も、すごっ」 「品数だけはあるからね」 「ありがと」 「ううん、俺が勝手にやってることだから」  母さんに許される範囲で買ってきたお惣菜や作り置き、もちろん母さん手作りの物も混ざっているおかげで、これだけの種類を毎日用意することができている。  なんて贅沢な食卓って思われるのは承知済み。  でも、我が家は八木沢くんを預かるかわりに、過分すぎるほどの食費をもらっている。 (八木沢くんに満足してもらえる料理を提供したい……)  すべては八木沢くんに、満足した食事を提供するために。 (あー、もっと調理実習とか母さんの手伝いを真面目にやってれば……)  品数が多ければ満足できるってわけじゃないなんてことは分かり切ってるけど、これが自分のできる唯一。  料理を美味しく作る腕も技術もないんだから、品数の豊富さで勝負するしかない。  これだけは、八木沢くんとの同居生活が終わる最後の日までやり抜きたい。 「そして、本日のメインはラーメンもどきっ」  小鉢よりも少し大きめの器に入ったラーメンもどきを八木沢くんの席に置く。  麺は、しらたき。  スープは、醤油味のラーメンスープ。
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