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色彩を失った世界。
目的地までの山道を、バスが上下左右に揺れながらうねうね走る。バスに乗り慣れてない私は堪えられずに慌てて飛び降り、知らない土地の廃れた停留所で独りうずくまる羽目となった。
いつもうまくいかない。特に自分で決めて自ら行動すると、何もかもうまくいかなくなる。
誰にも見つからないところで誰にも迷惑をかけないようにと、ちゃんと考えたのに。もう。自分の最期ぐらいすんなり逝かせてほしい。
どれくらいそうしていただろう。降車した以降の意識は、全て吐き気へと持っていかれていた。だからそばに人が居たことに声を掛けられて初めて気がついた。
「どうぞ」
たいしたリアクションもできず、声のする方をそろりと見上げると、すいと差し出されたのは細くて白い手だった。
「え……?」
その手のひらには葉っぱが乗せられている。細い一筋に五、六枚小さな黄緑色の葉が付いているけれど、何の葉だろう。
喉の奥にへばりつく気持ち悪さで再び目を瞑る。うまく頭も回らない。
――ぱんっ。
そんな音が聞こえてきたかと思うと、すぐに爽やかな香りが漂ってきた。シトラス系でミントのような清涼感。
「どうぞ」
頭上から降る声に顔を上げる。
「……これは……?」
「サンショウです」
「……サンショウ……」
オウムのように繰り返すと、その人は少年ように目を輝かせて微笑み、サンショウとやらを更にぐいっと目の前に寄こした。私の知る市販の鰻にかける山椒とは全然違う、ちょっぴりスパイシーなハーブみたいな香りがする。
不思議なことに、気持ち悪さがすうっと遠のいていった。
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