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昔、昔。
この大陸の東に「幸運の国」と名付けられた国があったんじゃ。
元々は他の国と変わらない普通の国だったんじゃが、新しい王が打ち出した政策が「国から不幸な者、不運な者を全員排除して幸福値を向上させる」というものでな。
時の宰相はもちろん反対したんじゃよ。
「その者たちは罪を犯したわけではありませんよね? 追放する法の根拠がありませんが……」
じゃが、王様は聞かんのじゃ。
「『不幸罪・不運罪取締法』をお前が作ればいいのだ」
宰相は聞いたことのない罪名に戸惑ってな。
「不敬罪なら聞いたことがありますが、不幸罪と不運罪は初耳です」
初耳は当然じゃ。
なぜなら新しい王様の思いつきなのじゃからな。
「私が王になったこの国では、不幸・不運は罪よ。不幸・不運な者がひとり残らずいなくなるということは、この国の全員が幸福で幸運。つまり国全体が幸せということよ」
宰相は思わず、
(この男、またとんでもない事を言い出したな……)
と呆れたのじゃ。
しかし、下手に逆らって物理的に首が飛んではたまらないとすぐに「不幸罪・不運罪取締法」という法律を制定し施行するんじゃよ。
そして、国中から不幸な者、不運な者が集められ追放されてな。
暫くして「幸福幸運の国」と国名変更し、国民の百パーセントが幸福で幸運な者というスーパーハッピーな国が大陸に爆誕したんじゃ。
ん……?
「その国はそれからどうなったのか」って?
まず、宰相がこう言って国を出たんじゃ。
「実は最近、とても不幸不運な事件が起きまして……」
王様は不幸で不運な者は全員、自分の国から追い出したいからの。
すぐに宰相が国を出ることを認めた。
実は、その元宰相がワシ達の先祖なんじゃ。
もちろん「不幸不運な事件」というのは、おかしな人物が王様になってしまったことを指している。
そして、国中が百パーセントスーパーハッピーのはずの『幸運幸福の国』は、すぐに滅亡した。
滅亡の理由……?
滅亡の理由は伝わっていないが、大体の理由は推測できる。
聞きたいか?
そうじゃのぅ。
「国から不幸と不運を身代わりしてくれる存在がまとめて居なくなったから」
これじゃなかろうか?
そもそもな話、幸福不幸や幸運不運は、他人と比べて測れる類のものじゃからして、な。
そして、不幸で不運な者たちは、もしかしたら他の人たちの面倒や困りごとを引き受けてくれる人たちだったのかも知れないということじゃよ。
さて、我が孫たちよ。
この話を聞いた後でも、まだ他人より幸福になりたいかの。
まだ他人より幸運に恵まれたいと我儘を申すかな。
程々が肝心という話じゃよ。
おしまい。
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