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Discardでのやり取りはとても楽だった。
岬の会が集めた10人ほどのメンバーは8人ほどが私も知っていて、親しいホラー系サークルのメンバーだった。そのうちの半分は、すでに東京を離れたり就職したりで活動をしていない。
けれど週に1回、土曜の夜に集まって会議をする。昔みたいに小説の話をする。このノリも学生のころと同じようで懐かしい。
「ねえ、百禄さん。実話怪談で百物語やった話ってない?」
「何人かやったって人に取材したことはあるけど、最後まで行ったって人は聞いたことがないなあ」
「えっ何で?」
「だって100話だよ。1話3分でも300分、つまり5時間」
「うわ、まじか。じゃあ成功させて伝説にしようぜ」
一般的な百物語、というのも変な話だが、だいたい5人から10人くらいが順繰りに話をして蝋燭を吹き消す。大抵が途中で飽きるし話が長くなると夜があける。だから私が取材した話はどれも『何も起きなかった』で終わるから、本にしたりはしていない。だってつまらないもの。
だから最後まで百物語を完遂しよう。
そのためにあらかじめ割り振られた順番に従って話をする。その話はオリジナルでは駄目だ。素人でも小説家というものは、ただでさえ自己顕示欲が強い。3分と決めて3分で終わるはずがない。つまりオリジナルを許可するといつ終わるかわからないし、適正に百物語といえるものかはわからない。
きっと正しい百物語でないとだめだ。怪獣や宇宙人が出てくるのも駄目。
だから参加者は百物語と認定された話の中から一人一つ語ることにした。認定された話というのは例えば、諸国百物語とか御伽百物語、太平百物語といった江戸時代から存在する、百物語としてお墨付きのある百物語だ。
「でも百人も集まるの?」
「それは大丈夫かな? ホラー系サークルの人の知り合い多いし、今はLIMEとかtiktakで名前検索したら見つかるし。それでなんとか見つけるさ」
たくさんの人間が意見を集めて一つの企画が出来上がっていく。まるでそれは百物語という生き物をベタベタと練り上げていくような試み。
お盆の一夜をあてることが決まり、ジィジィと蝉が鳴き始めるころには参加予定人数もいつしか百人を越えた。岬の会や今も活動しているアクティブなメンバーが随分広報したらしい。
百物語というのは百人分の怪談話を披露する。けれども普通は百人も集まらないから、何人かが手分けしていくつも話をする。その点でも、私たちが行うのは正しい百物語だろう。
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