百物語のその始まり

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 そういえば一番揉めたのは、本当に百物語をやるかどうか、だった。  百物語というのは100話が全て語られた時に怪異がその場に溢れ出す。そういうイベント。つまり配信を通じて100人、ひょっとしたらもう少し多いリスナーの元に。  けれどもそれって結構大変なこと。けれどもやるなら、ちゃんとやろう。中途半端はよくない。それが私たちホラー系文芸サークルの矜持だった。だから私たちは、スピーカーが1人も欠けずに99の話が終了したときだけ最後の100話目を話し、そうでなければそのまま雑談をしながら朝を待つ。そんな予定になっていた。  いるかいないかはモニタに表示される。スピーカーにだけ、互いの顔がモニタに表示される。お互いに存在することを、厳正に確認するため。  厳正な抽選の上でスピーカーを100人選定して、あとはリスナーに回ることになった。そうしてとうとう、その夜がやって来た。私たちが集めた100人のスピーカーが、それよりずっと多く集まったリスナーとの間で練り上げた百物語というシステムを実行する。 「さて、あとはやってみてのお楽しみです」 「本当におばけがでたらどうしよう~」 「そこまでいかないかもしれないじゃん」  その当日夜の七時半。  私は僅かな興奮とともにモニタを眺めていた。  岬の会の配信には100人のスピーカーとどこからともなく約300人程度のリスナーが集まった。リスナーは一切喋ることができない。スピーカーは誰かが話している時は当然話すことは禁止されているけれど、どうしても必要な時は話すことができなくもない。  何故ならスピーカーはインしている限り、ずっとスピーカー設定にしておく決まりにした。途中で誰かがオフになれば百物語は完遂しない。そのメルクマールを保つために。誰か一人でもオフになればその時点で百物語は未完となる。  今、私のモニタに整然と並ぶ100人のスピーカーの名前と小さく分割された画面に表示された顔。その7割程度は見たことがある人間で、少しだけホッとした。画面の向こうに繋がりを感じる。このモニタが全て生きているうちは、宵の闇は続く。  丁度晴れた暗い夜だった。日中の熱は日が沈んでも残り、エアコンをつけてもじめじめと蒸し暑い夜だ。  日の入りは午後七時四十三分。とても洒落ている。わずかに満月から欠けた月が西の空に沈んだころ、岬の会が主宰の挨拶を行い、リストの一番上から順に百物語が開始された。  話が1つ終われば、蝋燭を消す代わりにそのスピーカーはその部屋の電気を消す。流石に蝋燭を5時間も継ぎ足し続けることは現実的じゃないし危険だ。その世界を闇で満たせば要件は成立するだろうという見込みだ。そして、話が1つ終わったらスピーカーは全員イイネを押す。それが互いの存在確認。
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