百物語のその終わり

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百物語のその終わり

あつま‐る 【集まる】 《五自》 多くのものが一つ所に寄って来る。むらがる。また、集中する。  私たちは和気あいあいと、モニタ越しに怖い話を集めていた。  とはいっても古典作品だ。だから淡々と続く話は大体が古臭く、現代から考えるとさほど恐ろしくはない。中には滑稽噺かというものも混じっている。それがきっと、丁度よい。怖すぎても脱落者が出るかもしれない。  おそらくこのメンバーじゃなければ成立しない配信内容だろう。文フリで、ホラー好き。だから古典も読んでいる人が多い。  江戸時代というのは遥かに昔の話だ。それは時間の経過という以前に、文化、そして人の考え方自体が全く異なる異世界といってもいい。だからその共通認識がないと、そもそも昔話というのは現代には降りてはこない。  最初は明るかったモニタも、1つ話が終わる毎にフツリフツリと暗く消えていく。時にはじゃあねと手を振って、時には眠そうに唐突に、はたりと世界が闇に落ちる。けれどもその暗い先からはどこか、ざわざわとした人の存在が感じられた。見えなくても、そこにいる。  配信というものは不思議なもので、物理的に隔たっていても時間を共有できる。これこそが私たちが共通して紡ぐ物語というものの作用なのだろう。  そうして夜は深々と更けてゆく。  私は唐突に、奇妙なことに気がついた。そのモニタの先の闇がゆらりと時折動くような気がした。真っ暗にしたとはいってもモニタ自体は光っているだろうから、その光が反射したのかもしれない。その僅かな光が、闇に落ちたスピーカーやキーボードを淡く照らしているのかも。その闇の蠢きに目を瞬かせていると、やはり妙な違和感を感じた。その闇の向こう、スピーカーたちの後ろに何かがいるような、気が。  まさか。まさかね。  そうしてしばらくの時間の後、私の目の前のモニタは全て真っ暗となった。岬の会が挨拶をする。 「さて、皆さん、ちゃんといますね。いらっしゃったらイイネボタンを押して下さい。……うん。確認しました」  その瞬間、分割された闇に沈んだモニタの中から、一斉に手のマークが表示されている。それは(まさ)しく一種異様だ。 「すごい、最後まで100人分のイイネです。それでは最後の百番目の物語を開始します。実話怪談作家の百禄さん、お願いします。みなさん! 今この瞬間、私たちが実話怪談になりますよ!」  主催者の声はわずかに興奮していた。この100人の誰も、きっと本当に百物語が成立するとは信じていなかったのだろう。それほど長い時間が経過した。 「え、はい。ええと、いいんですよね」  私がそう呟いた時、99に分割されたその闇の向こうで、たくさんの何かが確かに頷いた気配がして、ゾワリと背筋がざわめいた。いいえ、真っ暗闇の中にいるのはスピーカーのはず。  そうして、奇妙なことに気が付いた。私のモニタだけが、明るく表示されているのだろう。だって私が最後のスピーカーで、まだその蝋燭を消していないんだから。  けれどもなんだか、私の周りには既に闇が漂っていた。そんな気がした。それは百物語の作用なのか、あるいは真っ暗なモニタから闇が漏れてきているのか、わからないけれども。  ふぅ、と一息をついて、話を始める心積もりをする。  私たちは実のところ、すっかり百物語の実行というものの虜になっていた。きっとこれが成功すれば、なかなかの快挙だろう。こんなに考えて百物語をするなんて、きっと他にはない試み。だから厳密な手続きを定め、完遂できるような仕組みを整えてしまった。  けれど百物語の目的は百の怪異の話をして本物の怪異を呼び出すこと。たくさん集めた恐怖の要素をもとに、何かを呼び出すこと。それが何かなんて、私たちは何も考えていなかった。  その事に今、気がついた。
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