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1. ここは天国?
光あふれる空間で最初に渡されたのは、ラメがまぶされたようにきらめく白い袋だった。留め具も装飾もないシンプルな形は……そうだ、サンタクロースが背負う袋を彷彿とさせる。とろけるようになめらかな触り心地で、私はすぐ気に入った。
何を入れるんだろう、まさかプレゼントかなと首をかしげる。すると自分の腕が目に入り、袋と同じくほのかに輝く白い服をまとっているのに気がついた。
足首まで届く半端袖のワンピースだ。私こんなの持ってたっけ?
近くを通りすぎる人々も同じ色合いをした簡素な作りの服を着て、白い花畑の上を裸足で歩いている。花びらが光の加減で七色に変わるから、こっちはオーロラ色と呼ぶのが正しいのかもしれない。
現実味がなくてあっけに取られていたら、頭上に輝く光――太陽よりも近くにありそうな眩しさなのに、熱さを感じない――が告げたのだ。
「その袋に好きなカケラを集めておいで」と。
「カケラ?」
「そう。集め終えたら戻ってくるといい。次の体をつくってあげよう」
次の体? カケラってどんなもの?
そもそもここはどこだろう。
疑問ばかり浮かんで、何から聞いていいか迷う。
混乱気味の頭を無理やり動かして、おそるおそる尋ねてみた。
「あの、ここは天国ですか。私は死んだんですか」
おやと意外そうなつぶやきを発したきり、光は黙ってしまった。
改めて周囲をうかがっても、光る空と花畑、その間を行く似たような姿の人たちしか見えない。どこまでも変わり映えしそうにない景色に、ここに時の流れなんて無いように思う。
それでも、窓際でまどろむ猫の気持ちになるくらい体内時計が進んだ気がしたころ、喋る光がひとまわり大きくなった。
「ここは、天国と呼べる場所なんだろう……そなたらの価値観ではな。同時に、無数の解釈が可能な場所でもある。……困った。そなたが納得できる説明を私はできそうにない。――ああ、ちょうどいい。今通りかかった者。この迷い主に説明してやってはくれまいか」
「分かりました」
透き通った、心地よい高さの声が凛と響いてびっくりする。
いつの間にか小学校に入りたてくらいの男の子が隣にいた。
やっぱり白く光るシャツとズボンを身にまとい、袋を持っている。中身が入っているらしく、ふくらんだ白色には凹凸が浮かんでいる。
頼んだぞと満足したように言ったきり、光は沈黙してしまった。
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