一冊の本

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 友達が”本”と公言してしまう程の私の休日は、ほぼいつも書店巡りから始まり、新書から古本まで気になる本を見つけては買い漁り、家に帰ってからは夜遅くまでその本を読み耽って過ごしていた。  そんなことだから凄い速度で本は増えて行き、2階にある私の6畳の部屋は本で埋めつくされる程になってしまう。  紙と言うのは積もり積もると馬鹿に出来ない重量になるのだそうで、そんな私の部屋を見た両親からは、このまま増え続けると天井が抜けるから少し処分するようにと真顔で言われる危機的状況に陥ってしまった。  当然、私も我が家の倒壊は望んでいないので、処分を考え始めたのだけれど、友達と呼んでいる程の本を処分することがどうしても出来ない。  それで、取り敢えず購入を控えめにする方向で親の納得を得ようと考え、その休日からは一冊を厳選して購入しようと心に決め、その日も書店巡りに出掛けたのである。  書店巡りに出掛け、いざ沢山の本を前にすると、浮かれた状態に陥ってしまう私。  あえなくその日巡る予定の4店の内、3店目で既に厳選して購入するはずの一冊を、迂闊にもあっさりと購入してしまうと言う自制心の無さを見せてしまう。  結局、4店目は買う事も出来ず見て回るだけとなってしまうのだが、取り敢えず時間も早いと言うことで、本は買わないことを心に誓い向かうこととした。  その向かう道すがらである。  今までは店の前を通過するだけで、一度も入ったことのない古ぼけた小さな古本屋に、何故か惹き付けられる引力のようモノを私は感じたのである。  その古本屋に寄る予定の無かった私は一瞬どうしようかと思ったのだけれど、特にそれに抗う必要もないと、ふと珍しく前向きな思考が頭浮かび上がる。それに、持て余した時間を過ごすのには丁度良い。  私は少しドキドキしながら店内に脚を踏み入れること決めたのである。
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