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病室の少女
◆病室の少女
その病室には、一人の自分と同じくらいの少女が入院していた。
少女はベッドで半身を起こして窓の外を見ていた。その空には花火が打ち上げられている。
この世界の愉しみが凝縮されたような花火を見つめる少女の目は暗い。
何故なら、少女は悪い病気に全身を侵され、その命はもう数か月しかなかないからだ。
更に少女は自分の余命を知っているようだった。少女は短い命と知りながら生きているのだ。
大きな花火が続く中、父親らしき人が病室に入って来た。
少ない言葉が交わされた後、少女は父親に言った。
「この世界は不公平だわ」
父親が「どうしてそう思うんだ」と訊ねると、
「まもなく私はこの世界から消えていくのに、自分と同じ年頃の女の子たちは、あの花火を見ながら、青春を謳歌しているのよ」と少女は父に言った、
「人生って、どうしてこんなに不公平なの?」
父親は少女の問いに答えられなかった。
「神さまなんていないのね」少女は吐露するように言った。
父親が、「きっと神さまが見ているよ」と慰めの言葉を掛けても、少女は、「そんなの嘘よ。神さまなんていないわ」と、突っ撥ねるように言った。
少女の言葉を聞きながらピノは思った。
あの少女の言う通り、この世界は不公平だ。
私の場合も、みんなと同じように羽が生えなかった。それだけのことで差別され、両親にも捨てられた。
でもね、あなたは私に比べるとずっと幸せなのよ。あなたを気遣ってくれる親がいるのよ。
それに、例え長く生きても、輝かないで一生を終える人もいるし、短くでも精一杯に生を享受する人だっている。
卑屈になれば損だ。ピノは少女にそう言いたかった。
孤独を抱いたまま、少女にこの世界を去って欲しくない。
そう思ったのと同時に、ピノの背中がムズムズしてきた。
それは羽の生える兆候だったが、溢れる感情にピノは自分の体の異変に気づかなかった。
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