花子がささやいて

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花子がささやいて

『その波に聞きたい』 ざざざあ ざざざざあ 波が寄せる そして引き返す やって来た時と同じ音をたてて ざざざあ そして、ざざざざあぁ 静かに寄せては、また静かに引き返す 足元には名残惜しそうな飛沫が戯れて 砂がえぐれて小指をくすぐる いつまでもそこにいておくれ 立ち止まって波が騒ぐ感触にあの日を思い出す お前と過ごしたあの日を ざざざあ ざざざざあ  そして、もうひとつざざざと かかとでお前と遊ぶ 捕まえようと片足をあげる また逃げるように潜りこむお前に どこからやって来たんだい 誰かが飛ばした赤い紙飛行機が大きな波に着陸する 着水というのかな そうだよな 紙飛行機だって飛んでることに疲れることはあるんだよな 足元にいつしか夕陽が迷い込んでいた 顔をあげると真っ赤なお日様がこっちを見つめていた もうすぐ日が暮れるよと どうするお前、もう帰るかい でもお前の返事はない 振り返ればいつの間にか、お前のかわいい足跡がない どこにいったんだろう あの波が連れていったのかい いつお前は一人で帰ったの ぼくをひとりにしないでおくれ いつもいっしょにいてくれたじゃないか お前の足跡のないこの波打ち際に、ぼくはひとりかい どうせなら波よ ぼくもそっちへ連れていってくれないかな
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