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第八話 私との更なる繋がりをご希望ですか
扉を開けて廊下に出て右方向へ。
『声の感じもそうだし、薄々女設定じゃないかと思っていたが、やっぱりか…』
「内部通話にも大分慣れていただけた様で安心しました」
『気まずくないの? 気まずくないか、プロトだもんな』
「今のはどのような意図での発言ですか、アラタ様」
『阿修羅伯爵って知ってるか?』
「読み出します。左右非対称ですね。このキャラクターが何か」
『わかってて言ってるだろプロト!今の俺たちはこの状態だっていてるんだよ!お前は嫌じゃないのか?』
「こちらの二人はご夫婦の様ですが…アラタ様は私との更なる繋がりをご希望ですか」
ワザとらしい羞恥心が伝わってくる。小癪な!
『女と判ったとたんにそれか… いい性格してますねプロトさん』
「お褒めにあずかり光栄です」
「はぁ…もういいよ…」
思わす声が出たよ。
廊下の突き当りに着く。ちょっと幅は狭いが立派なエレベーターがあるじゃないか。
壁にある下向きマークのボタンを押す。
『マジで中身ナギなんじゃないか』
「恐れ多いですよアラタ様。私は単なる、高性能汎用人工知能です」
『はあ』
「間違えました。超高性能汎用人工知能です」
プロトの様子が…女性格をカミングアウトした辺りから、何と云うか気安くなっているような… 俺との融合が原因か? 融合… あれ……それは…俺は…人間なのか…?
俺の頭左半分はプロトだ。脳は左右揃って1個人とするなら、俺は誰だ? 融合しているなら尚の事、今考えているのは俺か?プロトか? プロトは、記憶の共有をしているらしい。プロトからテイクはしていない。身体機能としての脳機能の欠損を補っているらしい。右半身に不具合はない。俺はプロトを別の存在として認識している。プロトは何だ?プロトは汎用AIだ。俺は以前からこんな『俺』だったか…… !!っナギに嵌められた!? 『助けたのには理由が …打算だな…』たしかナギはそう言っていた。俺はいっ「…raタ様?」
「アラタ様!!」
「な、んだ」
「大丈夫ですかアラタ様? いま完全に脳機能が閉鎖されていました。いったい何をしたのですか!」
「…そうか…」
「そうかではありません。アラタ様の右脳が失われれば、アラタ様の存在が消滅するという事です。私がアラタ様の身体を維持して物理的に存在させることはできますが、それはアラタ様のゾンビでしかありません」
そうだ。それだ。だから俺は…
ズキン!
左目の奥が一瞬鋭く痛む。思わず左目を押さえる
「グッ」
右か左か自分ではわからないが、脳の奥の方で腫れてくるような圧迫感を伴う痛みが襲ってくる。
「アラタ様、一度お休みになられては? 環境、状況、状態、すべてが一変しました。精神的な疲弊は否めません」
「いや、大丈夫だ。 外に出よう」
「ですが…」
『本当に大丈夫だ』
機械的な『チン!』という音と共にエレベーターの扉が開く。
乗り込み1階のボタンを押そうとする。文字は読める、読んでいるが理解できない。
とりあえず一番下のボタンを押す。
ちょっと間が空いた後に扉が閉まり、エレベーターは降下を始める。
「先ほど解放された機能が活性化します。あと15秒ほどでアラタ様も使用できるようになります」
「……」
プロトが何か言っているが、脳がパンパンに腫れあがった感じでそれどころではない。意識が飛びそうだ。プロトは気付いてないのか。
再び『チン!』の音で扉が開く。その途端、脳が腫れあがった感じが一瞬で消えた。
何気なく目線を向けた扉の右横、ボタンの列が読み取れた。押したボタンは『1』だった。
さっき何かの考えの答えに至った気がしたが、考えていたと云う事実以外の詳細は、脳が腫れあがった様な痛みと同時にそれも霧散してしまった。
心に引っかかる。非常に気持ち悪い。大した事はないと思いたい感じもする。
エレベーターを出て右に向かって歩き出し、プロトに問いかける。
『俺たちの記憶は、後で見返したりできるのか』
「はい、アラタ様。 私には、短期記憶、長期記憶といった区別がありません。読み出した記憶は私が『アラタ様らしく振る舞う』ために使用され残ることはありません」
『そうか』
俺はなんでこんな質問をした? それは俺がしたかった質問か? プロトは……
「アラタ様、先ほど解放されたのは、『拡張鑑定・相互言語変換』です。エレベーター内で、表示物に変化がありませんでしたか」
『んー そう云えばボタンの数字が読めたな』
あそこがフロントか? 歩くにつれ頭の中の靄が消えてスッキリしてきた。けど。
あれ?なんだっけ。なんかこのままじゃマズい…ような。でも気分は過去一爽快だ。
「701号室のシジョウ様ですね。外出ですか?」
声を掛けられ少々驚く。気が付くと、カウンター越しにフロント係の女性の前にいた。
『ああ…』「アラタ様」「あ、そうだな、外出しようかと。チェックアウトではない」
あぶね、会話は出来ているか… プロトのお陰で不審がられなかった。
次は…
「それではシジョウ様、こちらの用紙に記入して鍵をお預けください」
カウンターの上の用紙を見る。読めるな。 記入は…明らかに地球の言語ではないものを読み理解しながら、自分の意図のまま書き出している。よし。
ん?右手だからか?
「これは私の機能ではなく『相互言語変換』によるものです。この星系に存在する言語を全て扱う事が出来ます」
『なるほどね』
フロント係が読めるように用紙を回転させ差し出す。 うん快調だ。
「お嬢さんはこの街の人?ちょっと教えて欲しいんだけど」
「あ、はい、この街の出身ですが」
この場合『お姉さん』が正解?『あなた』?『フロントさん』? このホテルに勤めてるならどこ出身でも街のことは知ってるか。
「いや、この街は初めてでね。手っ取り早く色々知りたいんだよね。 ああ、このパンフレットもあるね」
「フフフ、ありがとうございます。 パンフレットには無い情報もございますので、仰ってください」
「そう? なんか、こう、仕事帰りの人がたくさんいて、ガヤガヤしていて、食事ができたり、酒が飲めたり…」
「そうですね… それでしたら」
つづく
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