3人が本棚に入れています
本棚に追加
彼の話を聞き、絵に宿る閃く生命を感じ取った歌子は、由松の油絵に心底惚れてしまった。思わず触って確かめたくなるような色彩表現が、生命の息吹きが聞こえてきそうな躍動感を出している。彼が捉えた光景の一瞬をキャンパスに閉じ込めているのだと、彼女は評した。
今度は歌子が由松の方へ体を向ける。
「もったいないです。あなたのような才能が片隅に埋もれているなど」
「仕方ありません。芸術にも旬があるのだと、父は申しておりました」
由松はため息混じりに言った。
冬のなごりを含んだ風、涅槃西風が二人の間を通り抜けた。船頭が櫂を水面に打ちつける。その飛沫によって、目前の光景が一層冴え返った。
最初のコメントを投稿しよう!