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背中まで伸びた髪を 三つ編みにし、根元の方へ折り返した部分を白いリボンであしらった色白で小柄な少女がいた。まがれいとという名前の髪型で、若い女性の間では人気が高く、和装にも洋装にも合う髪型だ。
時代は明治後期、西洋文化と日本文化が交錯する文明開化の時代。多くの男性は髷を切り落として背広を着用し、石造や煉瓦造の西洋建築が増築された。
淡い桃色に紺色の袴姿を装った歌子はカスタードプディングを味わう。束の間の休息を馴染みの洋食店で過ごすことが、彼女の楽しみであった。
歌子は華族の次女として生を受けた。しつけや作法に厳しく、社交界に出れば歌子は両親が丁寧に育て上げた、上品で聡明な娘でなければいけない。彼女が今通っている美術学校も完全に両親の意向であり、肝心の歌子は芸術に興味がなかった。芸術の教養を培い、自分たちの理想に近づけさせようという、両親の欲が透けて見えたからだ。
プリンの皿もコーヒーカップも空になってしまったため、仕方なく歌子は洋食店を後にした。路面電車の警笛が響く。
帰り道は徒歩にした。家に着く時間が遅くなってしまうが構わない。講師との話が長引いた、道が混んでいたからなど、いくらで誤魔化せる。それと、もう一つ理由がある。帰り道の途中、川越しに富士が見えることに気づいた歌子は、路面電車や馬車を使わず歩きで富士の前を通ることにしている。
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