一つの顔、二つの記憶

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 担当医で副センター長の菅原ケンは、リクトの病気は脳の記憶がこんがらがっているからだと考えた。毎日の記憶は脳に刻み込まれているが、それぞれのデータが、脳の中であちこちに散らばっているために思い出せないと聞いていた──。 「──以上がリクトの記憶です」   「そうね、菅原先生は何をしたの?」 「リクトの記憶によると、パソコンで言うところのデフラグをかけることにしたと聞きました。記憶の全てをいったん外部記憶装置に移して、そこでデフラグをかけて情報を整理してから元の脳に移動させると治るのではないかと言う仮説です。  ただ、外部記憶装置に移そうとしても記憶が膨大で人工の記憶装置では対応できなかったそうです。  そこで考えたのが人間の脳を外部記憶装置として使う方法。  そこで、僕の……ショウの脳を完全に初期化した上で、リクトの記憶を移動させ、デフラグをかけてまた、リクトの脳へと移したそうです」 「でも、完全に初期化されておらず、上書きになったってことかぁ」 「こう考えると、リクトは可哀想な奴ですね。僕も、最近、物忘れがひどくなったけど、そんなレベルじゃないですからね」  
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