あなたのそばに夢幻堂

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(見覚えのない本ばかりだな。変な店)  いくつかの本の背表紙を眺めてみたのだが、知らないタイトルや著者名のオンパレードだった。  出版社名やレーベル名が書いてあるものは、殆どない。  これはもしや、噂に聞く「自費出版本ばかりを集めた本屋」というやつだろうか? 「お客さん、うちの店は初めてですか?」 「えっ? ああ、はい」 「うちの店は、私が選りすぐった本しか置いていないんですよ」  まるで僕の内心を見透かしたかのように、店主が教えてくれた。  しわくちゃの顔に浮かんだ笑顔はどこか人懐っこく、不思議な安心感を与えてくれる。  だからなのか、気が付けば僕は自然に口を開き、こんなことを言っていた。 「なにか、お薦めの本とかありますか?」 「そうですねぇ、こちらなんか、いかがでしょう」  僕の言葉に気を良くしたのか、店主が棚の一つから、文庫サイズの本を取り出し、差し出してきた。  タイトルは「僕」、著者名は「夢幻堂 編」と書いてある。 「うちの店のオリジナルの小説なんです。きっとお気に召すと思いますよ?」  言いながら、裏表紙を見せてくる店主。そこには「500円+税」と書かれていた。  普通の文庫本と比べても、かなりお得な値段だ。 「毎度あり」  手早く会計を済ませ、店を後にする。  店主は店先まで出てきて、僕を見送ってくれていた。
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