あなたのそばに夢幻堂

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 ――僕は自宅マンションの前に身を潜めていた。  手の中のスマホは、先ほどから録画モードでマンションのエントランスを撮影している。 (……来た!)  エントランスから、見知った男が出てくるのが見えた。僕の長年の親友だ。  妻とも知り合いではあるが、彼女が一人の時に訪ねてくるほどの仲ではない――はずだった。  僕がここに隠れて既に三十分が過ぎている。その間、彼がマンションに入っていった姿は見ていない。  つまり、彼はそれ以前からマンションの中にいたことになる。  親友だった男の姿がすっかり見えなくなってから、録画を止め天を仰ぐ。  星の見えないくすんだ都会の夜空は、今の僕の心に似合い過ぎていた。  さて、これからどうしようか?  さしあたっては、何も気付かないふりをして家に帰って。  そして、明日からは腕のいい弁護士と探偵を探すことにしよう――。
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