入学式

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入学式

 朝の埼京線は緑色。車体の話、風景の話。  私の髪の毛はピンク、お洋服もネイルも靴も。全部通販で買った、テロテロのレースがいっぱいついたブラウス。  ショッキングピンクのでっかいリボンがついたジャンパースカートには、うさぎちゃんの柄がプリントされている。  ぽんぽんパニエ、フリル付きの白い靴とこれまたショッピングピンクのおでこを履いて。  全部がピンクの私、ぴんくちゃん。あだ名じゃなくて本名なのっていうと大抵の人はびっくりする。 「キラキラネームだね」 「今時だね」  って言って、困ったような顔をしたり嫌なやつだと眉を顰めたりする、けど私はこの名前大好き。  全身ピンクのぴんくちゃん、なんて素敵だと思うから。ちなみに弟はみずいろっていうの、素敵な姉弟!  そんな私は今、電車に乗っている。4月、新社会人とか新入生とか、新しい季節っていうとありきたり。そんな私も、この春から大学生。  2年浪人して、藝大を目指していたけど結局落ちて、今年から私立の美大に通うことにした。今日はね、入学式です。  ーーそんな感じの子達が電車に乗っている。かくいう私もそうだけれど、格好が違う。みんな固い格好、スーツとか着てる。  大人じゃないのに変なの、って思ったけれど。私ってばもう二十歳だから大人だった。でもまだ学生だからって、込み入った電車の中で思う。  大人になったら、フリフリのお洋服着れないのかな、可愛くないありきたりな量産されたシャツとかスカートとか。ユニクロとか着て。  そんなの着ている私ってもう、ぴんくちゃんじゃないと思う。でも改名ってすっごく大変だから、私はずっと子供がいいな、って思う大人の私はちょっぴりブルー。  新しいところは苦手、憂鬱になる。吊り革に掴まっている私、前に座っているお兄さんの髪の毛は藁みたいな金髪。  私は毎日カラートリートメントしてるからそんなに髪、傷んでない。ふたつに結んだピンク色の髪の毛は、少女性の象徴だから、とっても大事。  毎日ブラシで梳かしてあげてる私の女の子、みたいなってこれだと娘みたいだけど。感覚的には女の子。  髪の毛はサラサラ、髪は女の命って昔の人が言ってたからね。電車がどんどん池袋に近づいてきて、私の胃がキュウっと縮む。  池袋で乗り換え、そこから有楽町線で大学の最寄りまでどんぶらこ。  みんなスーツ着てるのかな、私浮いちゃうかな? なんて思うけれど、じゃああなたもスーツを着ますか? って聞かれたらやっぱり嫌で。  不安で緊張してお腹が痛くなっちゃうくせに、私はロリィタさんのまま。  これじゃないと私じゃないから、入学するのは私だしって胸を張る。素数を数える、好きな漫画のキャラクターが言ってた落ち着く方法。  でも私、算数できないから途中で数が止まる。また心臓がバクバクなる。電車がガタンって止まった。 「お客様が踏切内に……」  危ないなあ。  ーー私もやったことあるけど。
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