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カフェで二時間ほど過ごした後、ぼくたちは解散した。初回は互いの印象を確認し、継続を希望するなら連絡する。そんな暗黙の了解があった。
帰りの電車に乗り込んだところで、スマホにメッセージが届いた。
『今日はありがとうございました。またお誘いしても良いですか?』
『こちらこそです。よろしくお願いします!』
慌てて返信した。こんな自分で良いんだ……! と気分が浮つく。だが同時に、頭の片隅から「いいのか、継続して?」とささやく声が聞こえてきた。
そんなことを考えてしまうのは、あいつ――蜃気楼カツ世のせいだ。
例の本を見せた後、口ごもるぼくに気づいた佳乃さんはすぐに話題を変えてしまった。話を蒸し返すこともためらわれ、結局何も聞けなかったのがいまさら気になっている。
吊革につかまりながら、ぼくは「占い 信じる人」と検索してみた。結果は、どれも似たような内容だった。占いを信じる人は、夢見がち。自信がなく、少し子どもっぽいところがあります……。
佳乃さんの細い手首や、笑うとき手で口もとを隠すくせを思い浮かべる。たぶん彼女はちょっと心配性で、ああいう本を読むことが気晴らしなのだろう。そんな人はたくさんいる。占い本は買う人がいるから、売られているんじゃないか。
そう考えると、頭の中の声は小さくなった。ぼくは気持ちを切り替えて、次のデート先を検索しはじめた。
二度目のデート先は、ぼくが提案した。大通り公園で実施されるオクトーバーフェスト。季節限定のイベントで特別感があるし、昼からお酒が飲める。少し涼しくなってきた今の季節は気持ちがいいに違いない。
だが、思うことは皆一緒らしい。大通り公園は人で溢れかえっていた。
「蒼太さん、こっち!」
入口付近で途方に暮れていると、聞き覚えのある声に呼ばれる。色づきはじめたイチョウ並木の下で、黄色いニット姿の佳乃さんが手を振っていた。
「お待たせしました。佳乃さん、よく気づきましたね」
「その腕時計が見えたから」
今日も着けてきた青い腕時計で、ぼくを見つけてくれたようだ。
「着けてきて良かった。佳乃さんはイチョウ色ですね」
「ふふ、そんなつもりじゃなかったんです。ただ……」
言いかけて、佳乃さんは言葉を濁した。
黄色がラッキーカラーだったのかな。頭の声を、ぼくは無視する。
「じゃあ行こうか。ビールはあっちのテントみたいです」
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