蜃気楼カツ世のミラージュ大開運

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 ぼくが歩きだすと、佳乃さんもすぐ隣に並んだ。 「蒼太さん、ビールがお好きなんですか?」 「まあそれなりかな。佳乃さんは?」 「私は結構いける口かも」  ちょっと得意げな笑顔を見て、なんだか胸がむずこくなる。  テントに近づくにつれて、混雑はますますひどくなった。人波が行く手をさえぎり、佳乃さんが遅れはじめる。ぼくは、とっさに彼女の手を取った。 「その、混んでるから。はぐれないように」 「……うん」  温かく、柔らかな手だった。うっかり離さないように、でもきつく握りすぎたりしないように。頭の中が力加減に忙しく、そこから先は黙って歩いた。  ようやくジョッキを手に入れて、ぼくたちはテントを離れた。佳乃さんはピルスナー、ぼくはスタウト(黒ビール)。 「黒が好きなんですね」 「いつもはふつうのビールです。これは、公式サイトでイチオシだったから」 「そうなの? ずるい、教えてくださいよ!」 「ふっふっふ……」  酒が入り、互いに口調がくだけてくる。佳乃さんは自己申告のとおり、なかなかいける口らしい。 「あの辺に座ります?」  並木道を抜けた先に、芝生のスペースが広がっている。ぼくたちは用意してきたピクニックシートに並んで腰を下ろした。佳乃さんが目を細めて顔を上げる。 「空が高くて気持ちいい。秋ですね」  色白の頬が、ぽっと桃色に光っている。ぼくはその横顔に見とれた。素敵な人だよな。ルックスだけでなく、しぐさも、性格も。趣味も合うし……と思ったところで、頭の中の声が戻ってきた。 「佳乃さん、占いが好きなんだっけ」  しかも、そのまま口からこぼれてしまった。切り出すにしても下手すぎるだろ! 佳乃さんも苦笑する。 「気になりますよね。いい年して、占いなんて」 「いや、その」  まごつくぼくをよそに、ジョッキをシートの端に置く。帆布のバッグを引き寄せると、取り出したのは例の本だった。今日も持って来てたんですね……。  佳乃さんは、本をぼくに差し出した。 「読んでみますか」 「え、いいの?」  本は思ったより重く、しっかりしていた。ぱらぱらページをめくると、ふわりと良い匂いが立つ。佳乃さんの家の香りだろうか。 「占いは、(めい)術……生年月日を使うんです。蒼太さん、お誕生日は六月ですよね」  ぼくが香りに全集中している間に、佳乃さんは占いの説明をはじめた。
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