23人が本棚に入れています
本棚に追加
ぼくが歩きだすと、佳乃さんもすぐ隣に並んだ。
「蒼太さん、ビールがお好きなんですか?」
「まあそれなりかな。佳乃さんは?」
「私は結構いける口かも」
ちょっと得意げな笑顔を見て、なんだか胸がむずこくなる。
テントに近づくにつれて、混雑はますますひどくなった。人波が行く手をさえぎり、佳乃さんが遅れはじめる。ぼくは、とっさに彼女の手を取った。
「その、混んでるから。はぐれないように」
「……うん」
温かく、柔らかな手だった。うっかり離さないように、でもきつく握りすぎたりしないように。頭の中が力加減に忙しく、そこから先は黙って歩いた。
ようやくジョッキを手に入れて、ぼくたちはテントを離れた。佳乃さんはピルスナー、ぼくはスタウト(黒ビール)。
「黒が好きなんですね」
「いつもはふつうのビールです。これは、公式サイトでイチオシだったから」
「そうなの? ずるい、教えてくださいよ!」
「ふっふっふ……」
酒が入り、互いに口調がくだけてくる。佳乃さんは自己申告のとおり、なかなかいける口らしい。
「あの辺に座ります?」
並木道を抜けた先に、芝生のスペースが広がっている。ぼくたちは用意してきたピクニックシートに並んで腰を下ろした。佳乃さんが目を細めて顔を上げる。
「空が高くて気持ちいい。秋ですね」
色白の頬が、ぽっと桃色に光っている。ぼくはその横顔に見とれた。素敵な人だよな。ルックスだけでなく、しぐさも、性格も。趣味も合うし……と思ったところで、頭の中の声が戻ってきた。
「佳乃さん、占いが好きなんだっけ」
しかも、そのまま口からこぼれてしまった。切り出すにしても下手すぎるだろ! 佳乃さんも苦笑する。
「気になりますよね。いい年して、占いなんて」
「いや、その」
まごつくぼくをよそに、ジョッキをシートの端に置く。帆布のバッグを引き寄せると、取り出したのは例の本だった。今日も持って来てたんですね……。
佳乃さんは、本をぼくに差し出した。
「読んでみますか」
「え、いいの?」
本は思ったより重く、しっかりしていた。ぱらぱらページをめくると、ふわりと良い匂いが立つ。佳乃さんの家の香りだろうか。
「占いは、命術……生年月日を使うんです。蒼太さん、お誕生日は六月ですよね」
ぼくが香りに全集中している間に、佳乃さんは占いの説明をはじめた。
最初のコメントを投稿しよう!