蜃気楼カツ世のミラージュ大開運

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「誕生日と星座と生まれ年、これをミラージュ……ええと数式にあてはめて計算します。後ろのページに付いている早見表で、計算した数字と今日の日付から対応するページを割り出すんです」 「ミラージュ……」の続きが気になったが、質問できる雰囲気ではない。佳乃さんは口の中でしばらく数字を転がした後、ページをめくった。 「八十三。ここですね」  どうやら一ページに一つずつ、占いの結果が書かれているようだ。八十三ページをのぞき込むと、太字でこう書かれていた。 『人からどう見られるかは問題じゃない。大切なのは、貴方(あなた)がどのように見るかってことよ。判断を急いではダメダメ! じっくりゆっくり、しばらくは足元注意』  その後に、ラッキーカラーなど細かい情報がつらつら並んでいる。  これが、占いだと……? ぼくは拍子抜けした気分で読み返した。まるで近所のおばさん――しかも結構クセのあるおばさん――にアドバイスされているようだ。まあ占いって、そういうものかもしれないけど。 「私、蜃気楼先生の占いを信じてます」  ぼくは顔を上げた。佳乃さんが、真剣な顔つきでぼくを見ていた。 「子どものころから、何をするにも悩んでしまう自分の性格が嫌でした。自分を変えたい、もっと色々なことに挑戦したいって、ずっと思ってて……。そんなとき、この本の言葉に出会って背中を押されたんです。蜃気楼先生の占いは、私を支えてくれる。迷いから解放してくれる。だから私も、ついて行こうって」 「……」  ぼくは黙って本の裏表紙を見た。税抜き三千八百円。思ったより高い。そして「蜃気楼先生」呼びはどうにもシュールだ。  だが、佳乃さんの口調は切実だった。そのことがぼくに心を決めさせた。 「ありがとう」  ぼくは本を返した。 「変に気にしたりしてごめん。でももう大丈夫です。この本が佳乃さんの大事なものだって、わかったから」 「蒼太さん……」  佳乃さんのこわばりが溶け、頬に赤みが戻ってくる。見つめ合うぼくたちの背後から、明るい音楽が聞こえてきた。 「あ、ジャズの演奏会があるんだった。行きます?」 「よければ、ここにいたいです」  秋の風が火照った顔に快い。ぼくたちはぬるくなったビールを飲み干してシートに寝転がり、音楽を聞いた。
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