蜃気楼カツ世のミラージュ大開運

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 銀色の市電に乗った佳乃さんを見送り、ぼくは反対側のホームに立った。近ごろは六時を過ぎるとすぐ暗くなる。スマホを取り出し、今度は自分からメッセージを送った。 『今日はありがとうございました! ところで日本酒はお好きですか? 美味しい創作和食の店があるので、来週の土曜日に行きませんか』 『いいですね。ぜひ!』  すぐに返事が来て、思わずにやけてしまう。万事順調だ。蜃気楼カツ世のことにも区切りがついたし。  切羽詰まった表情でカツ世について説明する佳乃さんを見て、ぼくは決めたのだった。カツ世ごと彼女を受け入れよう。そして、いつかはカツ世から卒業させてあげよう。カツ世の代わりに、ぼくが彼女を支えるのだ。  そんなことを考えていたのだった。 『すみません。土曜日の約束、キャンセルさせてください』  そのメッセージが届いたのは、月曜の朝のことだった。 『了解です。仕事のトラブル? お疲れさま』  満員電車の中、メッセージを返す。すぐに既読がついたが、返事はそれきり来なかった。  こっちから再度送るべきなのか? それとも時間をおくべきか……。  似たようなシチュエーションなら、ネットの質問サイトに山ほど転がっている。相談せずにはいられない人びとの気持ちが、今になって理解できた。  しばらくようすを見たが、次の週に入っても連絡がない。会社の昼休み、ぼくは思い余って新しいメッセージを送った。 『その後どうですか。よければランチでも』  既読がついた。  数分が経った。  もう、返事をするつもりもないのだろうか。焦りがつのる。なんとか言ってくれ。会いたくないなら、会いたくないと言ってくれ……! 『今週はまだ日が悪いので、来週でもいいですか?』  とうとう返信が来たのは、業務再開の五分前だった。『もちろんです!』と送り返し、『食べたいものはありますか?』と質問しかけて、ぼくはふと佳乃さんのメッセージに目を留めた。  どういう意味だろう。『まだ日が悪いので』とは。  もちろん色々な意味が考えられる。だがぼくの脳裏には、毛筆体のタイトルがでかでか印刷された例の本が浮かんでいた。  まさか、カツ世の占いが関わっていたりしないよな……?  混乱している間に昼休憩が終わった。午後の仕事は、内容がまったく入ってこなかった。
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