蜃気楼カツ世のミラージュ大開運

6/9
前へ
/9ページ
次へ
 三回目のデートは、港近くのバーガーショップでランチをすることになった。 「すみません、駅が混んでて」  はじめて遅れてやって来た佳乃さんは、臙脂(えんじ)色のワンピース姿だった。秋らしい落ち着いた色味は彼女によく似合っている。だが今日は、素直に褒めることができなかった。 「今日のラッキーカラーは赤?」 「……うん」  少しトーンの落ちた返事を聞いて、自分がひどく嫌な奴になった気がした。一方で、やはりそうかと思ってしまう。  オーガニックが売りのバーガーショップは、学生や観光客で混雑している。ぼくたちは三十分もかからずにランチを終えて外に出た。 「少し歩きませんか」  佳乃さんの提案で、埠頭公園に向かう。港を臨む遊歩道にも、多くの人びとが行き交っていた。ベンチに座っていたカップルが立ち上がるのを見て、佳乃さんが入れ替わりに腰掛けた。ぼくも、少し距離をおいて隣に座る。今日は風が強い。波間に白いしぶきが立っている。 「この前はごめんなさい」  佳乃さんはぼくに向き直り、頭を下げた。 「理由も言わずにキャンセルしてしまって。その、アプリでは説明がしづらかったから」 「それって、しん……占い関係?」  このシリアスな状況で「蜃気楼カツ世」と口にするのははばかられる。佳乃さんはゆっくりうなずいた。 「考えているとおりです。蜃気楼先生の占いで、先々週から私、めぐり合わせがとても悪かったから」 「めぐり合わせって!」  ぼくの大声に、通りすがりの老夫婦が振り返る。だがそんなことは気にしていられなかった。 「佳乃さん、占いの結果が気になるのはわかります。でも、それって自分の気持ちを曲げてまで従うことなんですか。それとも実は、ぼくと会うことはそんなに大事じゃなかった?」 「そうじゃないです」  佳乃さんが首を振る。膝上でぎゅっと抱えたバッグの中には、きっと今日も例の本が入っているのだろう。彼女の心の拠りどころが。 「蒼太さんと一緒にいて、すごく楽しかった。でも、占いのことで不審がられていないか、不安もあって。そんなときに蜃気楼先生の占いを見たら、しばらくは星めぐりが悪い時期だと言われて、会うのが怖くなってしまって」 「それは……」  占いを不審がっていることは事実だったから、否定はできなかった。ぼくは言葉を探し、結局そのまま立ち上がった。 「すみません、今日はもう……駅まで送ります」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加