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三回目のデートは、港近くのバーガーショップでランチをすることになった。
「すみません、駅が混んでて」
はじめて遅れてやって来た佳乃さんは、臙脂色のワンピース姿だった。秋らしい落ち着いた色味は彼女によく似合っている。だが今日は、素直に褒めることができなかった。
「今日のラッキーカラーは赤?」
「……うん」
少しトーンの落ちた返事を聞いて、自分がひどく嫌な奴になった気がした。一方で、やはりそうかと思ってしまう。
オーガニックが売りのバーガーショップは、学生や観光客で混雑している。ぼくたちは三十分もかからずにランチを終えて外に出た。
「少し歩きませんか」
佳乃さんの提案で、埠頭公園に向かう。港を臨む遊歩道にも、多くの人びとが行き交っていた。ベンチに座っていたカップルが立ち上がるのを見て、佳乃さんが入れ替わりに腰掛けた。ぼくも、少し距離をおいて隣に座る。今日は風が強い。波間に白いしぶきが立っている。
「この前はごめんなさい」
佳乃さんはぼくに向き直り、頭を下げた。
「理由も言わずにキャンセルしてしまって。その、アプリでは説明がしづらかったから」
「それって、しん……占い関係?」
このシリアスな状況で「蜃気楼カツ世」と口にするのははばかられる。佳乃さんはゆっくりうなずいた。
「考えているとおりです。蜃気楼先生の占いで、先々週から私、めぐり合わせがとても悪かったから」
「めぐり合わせって!」
ぼくの大声に、通りすがりの老夫婦が振り返る。だがそんなことは気にしていられなかった。
「佳乃さん、占いの結果が気になるのはわかります。でも、それって自分の気持ちを曲げてまで従うことなんですか。それとも実は、ぼくと会うことはそんなに大事じゃなかった?」
「そうじゃないです」
佳乃さんが首を振る。膝上でぎゅっと抱えたバッグの中には、きっと今日も例の本が入っているのだろう。彼女の心の拠りどころが。
「蒼太さんと一緒にいて、すごく楽しかった。でも、占いのことで不審がられていないか、不安もあって。そんなときに蜃気楼先生の占いを見たら、しばらくは星めぐりが悪い時期だと言われて、会うのが怖くなってしまって」
「それは……」
占いを不審がっていることは事実だったから、否定はできなかった。ぼくは言葉を探し、結局そのまま立ち上がった。
「すみません、今日はもう……駅まで送ります」
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